「インサイドヘッド2」のプロデューサー、ピート・ドクター

「インサイドヘッド2」のプロデューサー、ピート・ドクター勝田友巳撮影

2024.8.07

「失敗できる場を用意することが一番の近道」 ピート・ドクターが語る〝ピクサー流人材育成術〟「インサイド・ヘッド2」

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勝田友巳

勝田友巳

「インサイド・ヘッド」(2015年)から9年、続編「インサイド・ヘッド2」が世界中で大ヒットしている。1作目で小学生だった主人公ライリーは、高校入学を控えた年ごろ。前作の最後に登場した「思春期アラート」が本格発動する。今作も多彩なアイデアとストーリー展開で、驚くべき世界を見せてくれる。前作を監督し、今回はプロデューサーに回ったピート・ドクターはピクサーのアニメ作りを「多くの才能が指として集まった手のようだ」と明かすのである。
 

思春期アラート発動、ライリーは大混乱

前作でヨロコビをリーダーに、カナシミ、ビビリ、ムカムカ、イカリと五つの感情がいたライリーの頭の中は、新たにシンパイ、ハズカシ、イイナー、ダリィが加わった。新しい環境と上手に付き合おうと、シンパイが主導権を握るものの大混乱に陥ってしまう。自信をなくし、他人の目を気にして自分を見失う思春期の頭の中を、今回も見事に擬人化してみせた。

「続編は考えていなかった」とドクターは明かす。「でも『インサイド・ヘッド』の観客から、感情や子育てへの考えが変わったという声が聞こえてきて、それならこの世界観でもっとできるかもと思い始めたんだ」。続編のアイデアはケルシー・マン監督から出たという。「彼に新作のアイデアをいくつか持ってきてよと言ったら、続編をやりたいと」

マン監督は、ドクターが「ジョークのつもり」で前作の最後に登場させた「思春期アラート」を発展させる案を持っていた。脚本作りは、前作同様、思春期の頭の中の感情を探ることから始まる。「思春期について専門家と話し合ううちに、感情は五つだけではないと気づいた。ライリーの年ごろでは、人間関係を築く中で社会的な立場を気にするようになる。そして『不安』と『自分はここにふさわしくない』という感覚に行き着いたんだ」

科学的に見えて、しかも面白く

開発にあたっては、試行錯誤を繰り返すのがピクサー流だ。「うまくいくかどうか、やってみないと分からない。何百枚もの絵を描き、音とセリフを付けて映像も作ってみた」。いくつものアイデアを検討するうちに、「羞恥心」と「罪悪感」がその感覚に関係しているようだと分かってきた。「羞恥心から失敗を隠そうとするし、罪悪感をおぼえて過ちをただそうとする」。それらが不安という感情の引き金になる。「ただ、自己破壊的な感情というものはない。その人が最良の状態であるようにしようと、感情が働いている。不安になるのも、悪いことばかりじゃない。先のことを考えて、人間を守ってくれる。正しい分量であることが大切だ」

感情の動きを解明しても、それだけでは足りない。「科学的に見えることが大事だけれど、行きすぎると退屈になってしまう。楽しくておかしくなければいけない。多くを学んだ上で、一度それらを脇に置いて、どうしたら面白くなるかを考える。いろんなアイデアがせめぎ合い、試し、ストーリーの展開と感情たちの働きを総合していった」

才能を引き出して、一人で作るより良いものを生み出す

マン監督は、これが初長編。「モンスターズ・ユニバーシティ」「トイ・ストーリー3」などのストーリー開発や短編を手がけてきた。ドクターはプロデューサーの視点から「彼は計画的で気が回る。いい方のシンパイといったところ。ユーモア感覚や職業倫理、リーダーシップ能力も備わっている」と称賛する。ピクサーの監督は一人で作品を仕切るより、アイデアを引き出しまとめる役割だ。「ウォルト・ディズニーや宮崎駿のように、先頭に立って全部を1人で創り出す人もいるが、ピクサーでのリーダーの役割は、集まっている素晴らしい才能を見渡して、もっと良いものを生み出すようにすることだ」

文化や言語の壁を越えて受け入れられる作品を求められる。「多額の製作費をかけるし、ピクサーへの信頼に応えなければならない。集まった人々を指の延長のようにして作品を作り上げるのが、ピクサーのやり方だ。1人で考えるよりもずっといいものができると思う」

ピクサーは新たな才能も生んでいる。ドクター自身もアニメーターから出発し、監督に抜てきされて「モンスターズ・インク」「カールじいさんの空飛ぶ家」などのヒット作を連発した。人を育てるには「失敗できる場」を用意することが大切だという。「何かを学ぶために、それが唯一のやり方だから。プールの底に追い込まれて、もがいて溺れて水を吐いて、それでも続けられれば泳ぎ方を習得できる。自分もそうした経験があるから、次の世代を助けられるんだ」

さて「インサイド・ヘッド2」の大成功で、ライリーの生涯をシリーズ化できるのでは。「まだ何の計画もないよ」と言いつつ「挑戦することは興味深い」と続ける。「10代のライリーに、彼女と同世代も大人たちも共感し、もっと下の子供たちも面白がってくれた。ライリーが25歳になったらどうなるだろう。探ってみたら、何か見つかるかもしれないね」。期待してよさそうな口ぶりだったが……。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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