山田杏奈=三浦研吾撮影

山田杏奈=三浦研吾撮影

2023.6.27

笑顔を封印、疲労感も役に還元 ハードな撮影も「楽しかった」 山田杏奈「山女」

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勝田友巳

勝田友巳

取材中にしばしば見せてくれた、晴れやかな笑顔は一切封印。「山女」で演じた凜は、笑わず話さず、表情硬く何かをじっと耐え忍ぶ。21世紀生まれの山田杏奈と、江戸時代、冷害に苦しむ東北の農村で貧困と差別の中で暮らす少女とをつないだのは、「森と方言」だった。
 

 

江戸時代、冷害に苦しむ農村の少女

父伊兵衛と弟庄吉と暮らす凜の家は、先祖の不始末で田畑を失い村の忌み仕事で糊口(ここう)をしのいでいる。家を守るために伊兵衛の不始末を引き受けた凜は、自ら山に入り、〝山男〟と出会う。差別も抑圧もない暮らしの中に自由を感じたのもつかの間、村人たちは凜を天候回復のためのいけにえにしようと決めた。
 
凜は村ではのけ者にされ、家では父親の顔色をうかがいながら暮らしている。監督からは「歩き方とかたたずまいとか、凜として山にいてほしい」と求められたという。冒頭、凜は間引きされた赤ん坊の遺体を抱えて川に向かう。


「山女」©YAMAONNA FILM COMMITTEE

歩くだけのシーンを何度も

「ただ歩くだけなんですけど、何回もやったんです。んー、どうすればいいんだろう……と思いながら。でも完成した作品を見て、これは歩き方で分かっちゃうなと思いました。言語化が難しいんですけど、疲れとか重さとかが表れてしまう」
 
現代の生活とは環境も暮らしぶりも全く異なる。「脚本を読んで、江戸時代の伝承や18世紀の宗教観を盛り込んだ物語が、すごく魅力的だと思いました。私自身も魔女裁判とかにひかれるので、題材として面白いなと」。ただ、あまりにも現在とかけ離れている。「自分が凜をやるんだと思ったら、ああ難しいと。でも、凜の暮らしぶりが丁寧に書かれていたし、環境が変化する中で成長していく姿にやりがいがあるというか、楽しそうと思いました」


裸足で山中の地面を感じ

撮影は山形県の山中や、県内に作られた江戸時代のセットで1カ月。同県内のホテルで缶詰めとなって臨んだ。村での生活は伊兵衛や村人の顔色をうかがい、山に入れば裸足で歩き回る。たいへんだったのでは。
 
「そうですね……。体力的にはハードで、山の中を歩いてると自分でも気付かないうちに疲れていたりしましたが、その疲労感も凜に通じると思うようにしていました。それも含めて楽しかったですね」
 
現実とは接点のない凜の環境を演じるのに、周囲の環境を味方にした。「凜が山を偉大なものとして捉えている気持ちを、少しでも分かりたかった」という。


森と方言の助けを借りて

「森に助けてもらいました。怖くも美しくもあって、裸足で歩いていると地面の感覚を感じる。凜は早池峰山に手を合わせていますが、実際に入ってみると、山岳信仰の対象になるのが分かります。底知れなくて、生きてるものとそうじゃないものの境目が曖昧になる不思議な場所でした」
 
そして方言。遠野の言葉の音源を聞き込んだ。「最初のセリフが、赤ん坊を川に流す時に『この次は人に生まれてきてはダメだよ』という意味のことを言うんですが、その一言で、凜を演じているんだという気持ちになりました」。「ヒドサウマレテキタラダメダヨ」と、そこだけ凜の口調で。「東北の方にほめられて、ホッとしました」

永瀬正敏、森山未來 ベテランの存在感

さらに、経験豊かな共演者たち。伊兵衛を演じた永瀬正敏は「普段はとても優しいんです」。しかし……。「お芝居が始まるとピリピリした空気が流れていて、伊兵衛の様子をうかがって過ごす凜の感覚が分かりました」
 
山男は森山未來。弊衣蓬髪(へいいほうはつ)、一言も話さず獣肉を生でむさぼる。「凜も動物になった感覚で、本能のアンテナを張り巡らせる感じ。言葉を頼りにしないでいろいろ伝えよう、受け取ろうという気持ちかなと思っていました」
 
撮影中は分からないことも多かったという。しかし「完成した作品を見て、そこにちゃんと立っていることが何よりの説得力だったんだなと思いました」。


幸せを自らつかみ取った姿「すてき」

福永壮志監督は、封建的な村社会で苦しむ女性の姿と解放への希望を、現代と重ねて描き出した。自身は「撮影中は考えなかったんですが、取材などで改めて考えた」という。
 
「あまり『こういう話です』とは言いたくないですが、凜は家庭や役割から抜け出した時に、自分の幸せを見つけたんだと思います。今なら逃げるという選択肢もあるけど、凜には難しかった。それでも最後は、幸せを自分でつかみ取る。その姿はすごくすてきだと思います」

 

思い伝える役割に徹する

本作のほか、沖縄の基地問題を背景にした「小さな恋の歌」(20年)、LGBTQを題材とした「ひらいて」「彼女が好きなものは」(21年)など、社会的メッセージを込めた作品が続く。「選んでいるわけではないんです。私自身はいち役者として演じるだけ」と控えめだが、しっかりとした考えを持っている。
 
「社会的な関心が高まっていることはあると思います。描かれている事柄と真摯(しんし)に向き合って、極力理解するよう努力しています。でも、考えれば考えるほど答えが出ません。分かった気になっちゃいけない。監督の思いや観客に受け取ってほしいことを伝える役割に徹しようと思っています」


発見が一生続く仕事

若手とはいえ、芸歴は10年を超える。小学生で読者モデルとなり、高校時代に進学するか迷った末に、俳優に専念することを決めた。この仕事の魅力を「『この役お願いします』といただいたら、それは私のもの、私しかやる人がいない。責任が生まれる。だからがんばらなきゃいけないというのが大きかった」。
 
ハードだったに違いない「山女」の撮影も、「楽しかった」と振り返る前向き志向。「どれだけたっても、現場でお芝居してみると考えつかないような問題が出てきたり、こんな気持ちになるんだと発見したりということがずっとある。これからも一生続くだろうなというのが楽しい。クセになってるのかな。それがなかったらやめちゃうかもしれないけど、100パーできたとは絶対思わない。変な仕事ですね」

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

三浦研吾

毎日新聞写真部カメラマン