ひとシネマには多くのZ世代のライターが映画コラムを寄稿しています。その生き生きした文章が多くの方々に好評を得ています。そんな皆さんの腕をもっともっと上げてもらうため、元キネマ旬報編集長の関口裕子さんが時に優しく、時に厳しくアドバイスをするコーナーです。
2023.6.17
ひとシネマ中学生(当時)ライターが書いた「シンドラーのリスト」のコラムを元キネ旬編集長が評価する
中学生(現在は高校生)のひとシネマライター和合由依が書いた映画コラムを読んで、元キネマ旬報編集長・関口裕子さんがこうアドバイスをしました(コラムはアドバイスの後にあります)。
最新作「フェイブルマンズ」にもつながっていく、第二次世界大戦下の人物をフォーカスした「シンドラーのリスト」
人生で初めての白黒映画で得られたこと
映画少年時代を回顧的に描いた「フェイブルマンズ」を知ったことから、スティーブン・スピルバーグ監督に興味を持った和合由依さん。コラムの題材に、ナチス時代の強制収容所を描いた「シンドラーのリスト」を選んだ。
この作品で人生初の白黒映画を見たという和合さんは。白と黒で画面が構成されることで、これまで直視できなかった戦争映画を最後まで見ることができ、「主人公や主な登場人物ではない他のところにも視点を置くことができた」そう。
そして映画を離れ、スピルバーグ監督が南カリフォルニア大学に設立したショア財団研究所の活動にも言及する。強制収容所で起きたことが風化することのないよう映像化、デジタル化を行う施設だ。
映画のコラムを書く際に、その物語が私たちの生活と交差する具体例を示すと、理解度があがりやすい。和合さんが特筆する、ショア財団研究所の活動もそういったものの一つだと思う。高齢となった収容所生還者の話をホログラム映像と音声で聞くことができるシステムに興味深々となった。
和合由依のコラム
オスカー・シンドラー
彼は1,200人ものユダヤ人の命を救った人物です。
第二次世界大戦の時、当時ドイツ国の首相であったアドルフ・ヒトラーは反ユダヤ人主義を掲げます。それにより、ユダヤ人は悲惨な扱いを受けることになったのです。1日10時間をこえる重労働に対して、食事は腐ったスープや黒パンなど。力仕事が主な仕事だったため、体力が持たずに仕事ができなくなる人も増えました。それに、病に苦しむ人も多くいました。
オスカー・シンドラーはそんな状況を変えるため行動します。自分の工場でユダヤ人を雇うのです。ユダヤ人を自社の社員にして、社員の安全と生活を守るという作戦です。シンドラーの会社で経営を任されたのはユダヤ人のイザック・シュターン。彼らの会話でこんなものがありました。
イザック:「ユダヤ人は事業で利益を上げることを政府から禁止されている」
オスカー:「投資の見返りとしては現金ではなく、ヤカンや鍋で支払うことにしよう」
私はこのシーンがとても印象に残っています。なぜなら、シンドラーのこの考えがあったからこそ、イザックは一緒に会社を作ることに賛成し、多くのユダヤ人を救う大きな一歩になったと思うからです。
思うだけでなく、実際に行動を起こしたシンドラー
この作品を見て、私が何より一番に思うのがオスカーの人柄です。彼はすぐに行動に移していく人でした。きっとそれは、彼自身が広い人脈を持っていたことが影響していたからなのかもしれませんが、とにかく行動力のある人でした。
彼とアーモン・ゲート収容所長との会話の中で、英雄というものについてお互いに語り合うシーンがあります。英雄という言葉に対して感じ方が違う2人。シンドラーが思う英雄の在り方についてゲート所長に話した時、ゲート所長は少し考え方が変わったように見えました。
彼は、シンドラーの英雄に対する考え方について憧れを持ったのかもしれません。シンドラーとヒトラーがこの会話を交わしていなかったら、ゲート所長はもっと危ない人間になっていたのではないかと感じます。
白黒映画を見て感じた、たくさんの角度からの視点
私は人生で初めて白黒映画を見ました。この作品を見て、映像が白黒であることの良さについて知ることができた気がします。白と黒で作られていることによって、「戦争」というものの「姿」について今までとは違う視点で考えることができた気がします。他の色が付いていないからこそ、「スクリーン全体を見る」ことができたのだと思います。
「戦争映画」というものは見てしまうといつでも怖いものです。私は戦争を体験したことがありませんが、スクリーンの中から、たくさんのことが見えてきたのです。主人公や主な登場人物ではない他のところにも視点を置くことができました。
最近、特にこの1年でひとシネマをきっかけに、差別や戦争などといったことと関わっている映画作品にこれまでよりも多く触れるようになりました。初めは「怖い」という気持ちが先走っていたのですが、今はしっかり画面の奥を見ることができます。
正直にお話しすると、今回見た「シンドラーのリスト」はストーリーが少し難しかったです。理解するのが大変でした。でも、今難しいと感じても、1年後、2年後にもう一度見ると感じ方が変わってくると思います。今までも、そのように感じた経験がありました。
小さい頃からお気に入りで見ている映画を、最近になって約2年ぶりに見返してみたのですが、以前と物語に対する解釈の仕方が変わっていました。「シンドラーのリスト」も数年後にまた見てみたいです。
映画完成後もホロコースト関連の活動を支援するスピルバーグの取り組みも
最後に、アウシュビッツ強制収容所で過ごした経験がある1人の女性を紹介させてください。彼女の名前はレニー・ファイアストンさんです。
彼女の母はアウシュビッツ強制収容所に着いてすぐ、ガス室に入らされ命を落としました。そして姉は、人体実験で殺害されました。当時の様子を次世代に語り継ぐために、彼女は1000もの質問に答えました。この1000もの質問がどのように使われるのか疑問を持ちますよね。これは、AIの技術を利用して、彼女と会話型のシステムが作られています。
画面に映るレニーさんに質問すると答えてくれます。レニーさんが答えた1000もの回答の中からAIが質問に合うものを見つけ、彼女の映像を流すといったものです。こちらが質問しているとき、彼女はうなずいてくれたり、まばたきをしてくれます。
彼女の姿は、1993年4月22日に設立されたワシントンDCにある、ホロコースト記念博物館にて見ることができるそうです。このような取り組みがあったことに私はとても驚きました。私も実際に彼女と会話をしてみたくなりました。きっと、この文章を読んでくださっている方々もそう思っているのではないでしょうか。
実は、この取り組みに本作の監督である、スティーブン・スピルバーグ監督が携わっています。彼は「シンドラーのリスト」完成後に、「南カリフォルニア大学ショア財団研究所」を設立しています。世界各国にスタッフを派遣し、ホロコーストの時代に生活していたたくさんのユダヤ人の証言を集めていました。結果、合計5万5000人の声を集めることができました。その他にも、教育用映像を無償で提供したり、集めた証言をYouTubeで公開したりしています。
彼の行動は、映画とともに未来に残り続けます。本人もユダヤ人ということがあり、映画完成後でもこのように活動されているのだと思います。
シンドラーとスピルバーグ監督。彼らは英雄だと私は思います。ユダヤ人を救ったオスカー・シンドラー。そして映画で多くの人にシンドラーの存在とユダヤ人虐殺を発信し、映画製作後もたくさんの活動に力を入れ、今では映画の巨匠と呼ばれる存在となっているスティーブン・スピルバーグ監督。
3月3日公開の映画「フェイブルマンズ」は、彼の青春期に映画製作に出会うまでを描いた作品。そこには「シンドラーのリスト」へとつながるエピソードが語られているそうです。こちらもどうぞお見逃しなく。
「シンドラーのリスト」はDVD発売中
(ジャケット写真)
Blu-ray: 2075 円 (税込み) / DVD: 1572 円 (税込み)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント