コーダ あいのうた © 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

コーダ あいのうた © 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

2022.1.20

コーダ あいのうた

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

耳が不自由な父(トロイ・コッツァー)と母(マーリー・マトリン)、兄(ダニエル・デュラント)のもとで育ち、通訳も務めながら家業の漁業を手伝う健聴者のルビー(エミリア・ジョーンズ)。高校の合唱部顧問に歌の才能を見いだされた彼女は、音楽大学に進学したいと思うようになる。けれども自分を頼りにしている家族と、初めて抱いた自分の夢の間で揺れ動く。

フランス映画「エール!」を、米マサチューセッツ州の海近くの街に舞台を移してリメーク。両親は仲良しで下世話な冗談も飛び交い、言いたいことを言い合う家族の風景がユーモアたっぷりに描かれる。過剰に涙を誘う演出でないからこそ、ルビーの夢を応援したくなる。歌が聴こえないはずの家族の心に歌声を届けるための歌唱シーンは、号泣必至。実際に耳が聞こえない俳優を起用した点にも、フェアな精神が感じられる。サンダンス映画祭でグランプリや観客賞など4部門を受賞した。シアン・ヘダー監督。1時間52分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(細)

ここに注目

 フランスから米国に移設されるとスカスカになる映画もあるが、本作は成功例。家族で1人だけの健聴者という設定が、聴覚障害者を取り囲む壁を前景化させ、ルビーのジレンマが切実に迫る。前向きな幕切れの後のことが少々気になるものの、明るくたくましい一家に拍手。(勝)