©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras

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2023.1.11

生き生きと生きる人生の先達であり、偉大なる「人」「モリコーネ 映画が恋した音楽家」

音楽映画は魂の音楽祭である。そう定義してどしどし音楽映画取りあげていきます。夏だけでない、年中無休の音楽祭、シネマ・ソニックが始まります。

宮脇祐介

宮脇祐介

素晴らしい劇場体験を東京でも

1990年3月、福岡市のKBCシネマにて「ニュー・シネマ・パラダイス」を立ち見で見て号泣。
上京直前、そこで人生は確実に変わったと思っている。
 
僕は毎日新聞社の西部本社(北九州市)で採用され、人事担当者から「1週間東京の研修を楽しんでこい」と言われたが、そのまま東京本社に配属され次の4月で34年目を迎える。
実に長い研修である。
 
配属先は新聞広告の原稿を広告会社から受け取り、新聞に載せるという部署。
いわゆるローテーション職場で曜日関係なく、早番、中遅、大遅、泊まりを繰り返す。
 
上京したてで、休みが不定休。
休日の遊び仲間ができるわけもない。
 
そこで、「ニュー・シネマ・パラダイス」の素晴らしい劇場体験を東京でもと何度も繰り返し映画館に通うようになる。
 

僕の映画における始まりのうたの作曲者エンリオ・モリコーネ

ジム・ジャームッシュ、ビム・ベンダース、スパイク・リー、クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイ、ホウ・シャオシェン・・・・・・。
そうそうたる監督がスクリーン狭しとエキサイティングな映像を送り続けていたころ。
 
やがて、96年には映画広告担当となり、それ以来映画出資、毎日映画コンクール、ひとシネマとサラリーマン生活の半分を有に超える時を映画担当として過ごしている。
 
そんな僕の映画における始まりのうたの作曲者エンリオ・モリコーネのドキュメンタリー「モリコーネ 映画が恋した音楽家」を見逃すはずがあるわけがない。
しかも、監督が「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレとなるとなおさらである。


 

ローマで偉業を成し遂げたモリコーネ

「夕陽のガンマン」、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」、「アンタッチャブル」をはじめ、生涯500本以上の劇伴を担当した、多作にして世界的名声を手にしたマエストロ。
 
しかも、彼の音楽は何曲も何曲も脳内で再生できるだけでなく、口ずさむことさえできるのだ。
そんな映画音楽を生み出したのは「ジョーズ」、「スター・ウォーズ」や「ジュラシック・パーク」などのジョン・ウィリアムズ、「パイレーツ・オブ・カリビアン」、「ダークナイト」などのハンス・ジマー・・・・・・。
 
彼らのようにハリウッドではなく、ローマで偉業を成し遂げたのだからモリコーネのすごさがわかる。
 

成功者の鬱屈

しかし、彼のミュージック・ライフの始まりは決して穏やかなものではなかった。
医者になりたかった彼は父に教えてもらったトランペットで、倒れた父の代わりにバンドマンとして一家の生計を立てる。
作曲を学ぶも、結婚後、生活のためにアレンジの仕事を精力的にこなす。

 
小学校の同級生セルジオ・レオーネと組んだ「荒野の用心棒」の劇伴の評価から世界的に活躍が始まる。
 
その活躍は前出の作品の数々を見ればお分かりの通りだが、実に米国アカデミー賞との相性が悪かった事が本編では描かれている。
 
87年2回目のエントリーで本命視されていた「ミッション」がハービー・ハンコック「ラウンド・ミッドナイト」に敗れ論議を起こして以来、度々エントリーはされるが本賞の受賞はなしえなかった。
 
やっと2016年にタランティーノの「ヘイトフル・エイト」で本賞の作曲賞を得るまで30年以上を要したのである。

 
また、商業音楽を書くことは道徳的に批判されると考える。
自分は裏切り者だとの苦痛の呪縛にからめ捕られる。
 
 

長く生きることの答えを全身で表現

そんな「成功者の鬱屈」が描かれる一方、実にさわやかに描かれるのは実演家としての姿だった。
 
即興音楽集団「新しい協和音楽(ヌオーバ・コンソナンツァ)」やオーケストラの指揮者としての姿。

 
終焉(しゅうえん)の時、トランペットは吹かなかったが、指揮者としてコンサートホールで多くの観客の声援に包まれるモリコーネ。
 
至極の表情を浮かべていたと同時に長く生きることの答えを全身で表現していたのではないだろうか。
 
まさに、生き生きと生きる人生の先達であり、偉大なる「人」なのである。
 
そんなモリコーネの名曲の数々を大スクリーンで体いっぱいに浴びる幸せ。
 
今週末ぜひとも劇場にてご覧ください。

2023年1月13日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。
 
追伸:この作品のオファーにトルナトーレ監督は「音楽と共に使いたい映画の本編映像を自由に使えること」を条件にしたと言う。業界で言う部分使用。高倉健の展覧会で205本の生涯出演映画の調査と使用許諾を得る作業をした僕は、この映画のプロデューサーはさぞかしシビれる仕事だったのだろうなあと同情しました。

ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

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