「サバカン SABAKAN」に出演した草彅剛=下元優子撮影

「サバカン SABAKAN」に出演した草彅剛=下元優子撮影

2022.8.19

インタビュー:草彅剛「〝無〟の状態で演じたい」 脚本を100回読み込む役作りからの転換

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鈴木隆

鈴木隆

 
1986年の長崎の田舎町を舞台に、小学5年生2人の少年のひと夏を描いた映画「サバカン SABAKAN」。草彅剛は大人になってからの主人公を演じ、映画に風格を与えているますます評価が高まる演技派。「役は運命」「狙って演じるのではなく、その時々の状態に身を委ねる」と語る。
 


 

感激の涙を流した企画が没に

売れない小説家の久田孝明(草彅剛)が、サバの缶詰にまつわる一夏の冒険と友情を思い出す、という物語。

86年の夏、小学5年生の久田(番家一路)は夏休みのある日、クラスメートの竹本(原田琥之佑)に誘われて、ブーメラン島に来たイルカを見るため、自転車で出発。それを機に2人の間に友情が芽生える。ある時竹本は、久田に手作りのサバ缶すしを振る舞った。久田はそのうまさに感激するのだった――。
 
金沢知樹監督が自身の体験も盛り込んだ、長編映画デビュー作で、脚本(萩森淳との共同)も手がけた。草彅がかかわったのは「サバカン」のラジオドラマの企画が持ち上がった時からだ。
 
「新しい地図(稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾の3人による活動)を始めて、最初にいただいた仕事で、5年くらい前。読んだらメチャクチャいい話ですごく感動した。久ちゃんと竹ちゃんの別れのシーンでは涙が出てきて、ブースの中で読めなくなってしまったくらい。でも、そのドラマが没になって、がっかりした」


 「サバカン SABAKAN」©2022 SABAKAN Film Partners

少年時代の記憶を重ね

それから4年ほどたち、映画化が決まった。「映画版でも脚本はほぼそのままで、いいところを抽出した感じ」。大人になった久田はラジオドラマ版にはなかったが、作品の導入と最後を締め、案内人的役割も担った。「もしかしたら、映画化にあたって監督が僕の役を考えてくれたのかもしれない。ああ、久田は作家なんだ、回想シーンになっていくんだ、と新鮮に感じた。そして彼は、金沢監督の分身でもあって、言うとおりにやればいいと思った」
 
「金沢監督は初メガホンだし、脚本にもかかわっていたしで、並大抵ではない気合が入っていた。僕には細かい演出のことは言わなかったけど、漂ってくる熱というか、前のめりになっている感じはあった」
 
ラジオドラマの朗読で感激したが、映画でも好きなシーンがたくさんある。「駅のホームで久ちゃんと竹ちゃんが別れるシーン、そのあと父親役の竹原ピストルさんが久ちゃんを抱きしめて『母ちゃんの前で泣くな』というシーン、竹ちゃんが帰ってきて家族が迎えるシーンなど、グッときますね」
 
ほかにも少年2人が自転車に乗ったり、島に泳いで行ったり、心に残るシーンは多い。「ラジオドラマ版の時からでしたが、僕自身が少年のころにも感じたことが重なって、じんわりと心に響いてきた」
 
「自転車に乗って友だちとカブトムシを探しに行ったこととか、カエルや蛇を捕まえたこととか、今でも忘れていない。親友と呼べる友だちもいた。その頃に感じたことは、今の自分の核になっているし、表現や演技の一部にもなっている。若い頃は分からなかったけど、だんだんそう感じるようになってきた」
 

「サバカン SABAKAN」©2022 SABAKAN Film Partners

ナレーションも担当「普通に読むのが一番伝わる」

この作品ではナレーションも担当した。映画やドラマなどの穏やかでやさしい語り口への評価は高い。「褒めていただくことがあってうれしいけど、自分では全く意識していません。何も考えてないんです。考えてもできないし、気合を入れてもしょうがない。普通に読んでいるだけ。それが一番伝わると思っています」
 
本作でもその声が、いいアクセントになっている。「あえて言うなら、滑舌をよくして、口呼吸ではなく鼻呼吸にする。それを意識しているくらい」と控えめだ。若い頃からしてきた仕事の一つ。「当時は顔が映らないからつまらないと思っていたんですが、今になってみると、うれしいです」
 
「新しい地図」として独立以降、映画出演の数は多くないが、「まく子」「台風家族」(19年)、「ミッドナイトスワン」(20年)など、強いインパクトを残す役柄が続いている。作品選びは「僕にくる前にマネジメントがあって、自分で選んだことはない」と言い、「いただいたモノが運命だと思っている。役が人生のターニングポイントになることもある」。そうして主演した「ミッドナイトスワン」は代表作の1本となり、観客からの大きな支持と高い評価を受けた。演じるにあたって、どんな心構えをしているのか。
 
「何も考えずにやるというか、無の状態が一番いいと思うんです。狙ってこうしようとかではなく、その時々の状態に身を委ねる。脚本はもちろんきちんと読みますし、長いセリフも、ほかの方に迷惑をかけてしまうので覚えますが、世界観だけ分かっていればいいと思っています」


「サバカン SABAKAN」©2022 SABAKAN Film Partners
 

役は分からなくていい 世界観が大事

「あるキャラクターは笑おうと思って笑っているわけではないし、泣こうと思って泣いているわけではない。やろうと思って演じると、狙いが出ちゃうじゃないですか。大抵の人は、自分を完全には分かってなくて生きているわけだから、役を分かってなくてもいいんですよ。無理せずフラットな状態がいい。『ミッドナイトスワン』もそうでしたが、よりフラットに、無の状態を自分の中に作りたい。新鮮なものを作りたいということです」
 
こうした考えになったのは「35歳を過ぎてから」だそうだ。「それまでは脚本をメチャクチャ読み込んでいたんです。それこそ100回でも。こういう感情だから、こう芝居しようとか、自分の中でそれなりに練っていました」。現在とは正反対。
 
「経験を重ねていくうちに、フラットな状態がいい、と変わっていきました。剣術もそうです。型はたくさん練習するけど、最後は力を抜いた方が早く振れる、そんなイメージです。刀を早く振るには、何も考えない無意識の状態がいい。でも、無意識を作るには、最初は意識が大事」。長年の経験から生み出した答え。「型はさんざんやった。だからもういいかな」
 
それは「フレッシュな感情を届けたい」という思いにもつながる。「リハーサルも、段取りがあるので仕方がないけれど、個人的にはすぐに(カメラを)回してほしい」


 

慣れ親しんだサバ缶の味

あえて役の人物になろうとはしないようだ。〝役作り〟という言葉は、当てはまらないかもしれない。
 
「役が来た時点で、その人はその役なんですよ。僕じゃなくてもみんな。そんな感覚があります。監督さんやプロデューサーさんたちが、僕が知らないところで考えて『その人なんだよ、あなたは』って、役をくれる。そういう(役の)僕を見たいと思っていただけるということだから」。脚本を必死に読み込んで、作品に向き合って来た中から生まれたスタンス。「そういう時間も必要だった。次のステップに入っているんだと思う」
 
さてタイトルともなったサバ缶は、本作で2人の少年を結びつけ、久田を少年時代へといざなう重要なアイテム。「僕は元々、サバ缶が大好き。子どもの頃からいつも家にあったし、栄養価も高く高たんぱく。タマネギやマヨネーズを加えて食べたりして、身近なものでした。慣れ親しんだ味です」。相性はバッチリで「僕の映画かもしれません」とおどけてみせた。
 
◆映画紹介
 
ゴーストライターとして食いつなぎ、別居中の家族への仕送りもままならない小説家の久田が、少年時代を回想し新作を書き始める。1986年、小学5年の久田は愛情深い両親と弟の4人暮らし。夏休みのある日、久田の家をクラスメートの竹本が訪ね「海向こうのブーメラン島に来たイルカを見に行こう」と誘う。それを機に2人の間に友情が芽生えていく。
 
(C)2022 SABAKAN Film Partners
 
配給:キノフィルムズ
 
製作年:2022
 
監督:金沢知樹
 
出演:番家一路、原田琥之佑、尾野真千子、竹原ピストル、貫地谷しほり、草彅剛、岩松了
 
 
草彅剛さん=下元優子撮影

サバカン SABAKAN

ゴーストライターとして食いつなぎ、別居中の家族への仕送りもままならない小説家の久田が、少年時代を回想し新作を書き始める。1986年、小学5年の久田は愛情深い両親と弟の4人暮らし。夏休みのある日、久田の家をクラスメートの竹本が訪ね「海向こうのブーメラン島に来たイルカを見に行こう」と誘う。それを機に2人の間に友情が芽生えていく。

「SABAKAN サバカン」©2022 SABAKAN Film Partners

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て90年に毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。現在は毎日映画コンクールに携わる。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
下元優子

下元優子

1981年生まれ。写真家。東京都出身。公益社団法人日本広告写真家協会APA正会員。写真家HASEO氏に師事

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