毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.6.03
幸せの答え合わせ
イギリス南部の海辺の町。高校教師のエドワード(ビル・ナイ)はある日、結婚して29年近くになる妻のグレース(アネット・ベニング)に離婚を切り出す。グレースは驚きと怒りをあらわにし引き留めようとするが、エドワードは頑として受け付けず、家を出て行く。一人息子ジェイミー(ジョシュ・オコナー)とほぼ3人の会話劇だ。
熟年離婚の話だが、長年耐えてきた妻が定年や子供の結婚を機に、というパターンとは逆。繊細でおとなしい夫と勝ち気で弁が立つ妻をベテラン俳優がリアルに演じた。深刻なテーマを中和させているのは、切り立った崖と雄大な海の風景、時にユーモラスにも見えるグレースの行動力と気性の激しさだ。父母双方の思いを理解しようとする息子の姿も丹念に映し、三者三様のどうしようもなさと、かすかなよりどころをラストに見せる。イエーツら彼女が編む詩選集の詩の味わいが、物語に奥行きを与えている。ウィリアム・ニコルソン監督。1時間40分。東京・キノシネマ立川高島屋S.C.館、京都・アップリンク京都ほか。(鈴)
ここに注目
若い頃の夫にとっては、妻の気の強さが魅力的だったのだろうか。一方的ないら立ちや戸惑いをむき出しで表現してみせたベニングの存在感が強烈で、すがすがしいほど。ラストを見届けた感想としては、父と母両方の味方をし続けたけなげな息子に幸あれ、というところ。(細)