ひとしねま

2022.10.07

社会性と怖さ、両立期待

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

日本発ホラー映画の金字塔といえば、「リング」(1998年)だ。テレビ画面からはい出る黒髪の貞子のおぞましさといったらなかった。興行収入は推定20億円前後で、ブームの引き金になった。「“それ”がいる森」は、「リング」を手掛けた中田秀夫監督のホラー新作である。

本作でも、新たなキャラクター(それ)が登場する。不気味ではあるが、おぞましさ、怖さからは少し遠のいた。貞子のように、見る者の意識に強烈に粘りついてはこない。ただ、興味深い点がある。主要な登場人物である子どもたちには、とてつもない怖さを与えることだ。

「リング」がそうだったように、本作もまた、社会の一断面、及び人々の日常生活に描写の根を置いている。映画では、子どもたちを中心にした家族や共同体の不安感や動揺が描かれる。子どもたちの過度の恐怖心に、そのことの切実さ、切迫感が刻まれている印象をもった。

都会から田舎への移住、地域との関わり方を含め、今の社会の重要な一断面が盛りだくさんである。ただし、これは興行的なインパクトとしては、それほど強くない。社会的な背景と、怖さを増幅したホラー的な要素が緊密に結びついた作品を見てみたい。それが可能なら、「リング」が切り開いたブームの新展開も期待できるのではないか。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)