「誰も助けてくれない」より  © 2023 20th Century Studios

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2023.10.24

宇宙人がいきなり家に侵入 さあどうする? 見始めたら止まらない「誰も助けてくれない」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

高橋諭治

高橋諭治

スリラー&ホラー映画には〝ホームインベージョン〟と呼ばれるサブジャンルがある。直訳すると〝家宅侵入〟。私たちが日常生活を送るうえで最も安らぎを得られるはずの自宅に、殺人鬼や正体不明の一味が侵入してくるというシチュエーションを扱ったものだ。ミヒャエル・ハネケ監督の不条理バイオレンス「ファニーゲーム」(1997年)、ベアトリス・ダルが謎の凶悪怪女を演じた「屋敷女」(2007年)、長寿シリーズ化された近未来スリラー「パージ」(13年)などが代表例で、後味の悪いバッドエンド映画が多いのもこのジャンルの特徴と言える。
 

奇想天外なホームインベージョンもの

そんなホームインベージョン映画の系譜において、とびきり異彩を放っているのが「サイン」(02年)だ。M・ナイト・シャマラン監督が放ったこのSF映画のクライマックスで、農場の主人公宅に押し入ってきたのは何とエイリアン! 公開当時、筆者を含むあらゆる観客を絶句させた怪作だった。
 
「サイン」に触発されたかは定かでないが、20世紀スタジオ製作の「誰も助けてくれない」(23年)は、エイリアンの家宅侵入という奇想天外なアイデアを全編にわたって堂々と展開させた一作。しかもこれ、抜群に面白い。さわりだけ確かめるつもりで再生ボタンを押した人は、あれよあれよという間に引き込まれること必至のSFホームインベージョン映画なのだ。
 

屋敷の空間フル活用した恐怖演出が秀逸

主人公のブリン(ケイトリン・デバー)は両親に先立たれ、森に囲まれた一軒家で暮らす若い女性。とある深夜、物音で眠りから覚めた彼女は、自宅内に侵入してきた地球外生命体に驚いて逃げまどい、からくもその不気味な生き物を殺害する。翌朝、自転車で一見平静を保つ町を訪れたブリンは、バスで遠くへ逃げようとするが、エイリアンにパラサイトされた乗客に襲われてしまう。やむなく自宅へ舞い戻ったブリンは、新たな襲撃に備えるのだが‥‥‥。
 
最初の家宅侵入シーンであっけないほど早々に、奇怪な全貌をさらすエイリアンは、いわゆる典型的なグレイ型。大きな頭につり上がった黒い目、灰色の肌を持ち、人間のように二足歩行する。銃などの武器や特殊な戦闘スキルを一切持たない凡人のブリンは、あまりの恐怖に身を震わせるしかない。ブライアン・ダッフィールド監督は、地下室がある2階建ての大きな屋敷の空間をフル活用しながら、逃げる、隠れる、息を潜めるといった主人公のアクションを繊細に映像化。主人公が慌てふためく悪夢のような状況設定を安易にコメディーへ転化させず、侵入者のエイリアンとの攻防をサスペンスフルに描ききった。主演女優ケイトリン・デバーが体を張って見せる迫真のリアクションも素晴らしく、主人公がこの手のホラーにありがちな愚かな行動に走る場面もほとんど見当たらない。

エイリアン造形の工夫もぬかりなし

物語の2日目には、ブリンが住む地域全体がすでにエイリアンの支配下に置かれていることが判明するのだが、町のあちこちに点在しているエイリアン到来の痕跡、すなわちいくつものミステリーサークルを映し出す俯瞰(ふかん)のドローンショットが秀逸。また、先述したグレイ型宇宙人のありきたりな造形に拍子抜けする向きもあろうが、この点も工夫に抜かりなし。2日目の夜、もはや逃げ場もなく自宅に立てこもったブリンのもとには、人間捕獲に特化した別形態のエイリアンが迫ってくるのだ。例えば、体長10メートルはあろうかという巨大なナナフシのような化け物が、家の屋根の上にヌーッと出現するおぞましい光景を想像してみてほしい。
 
そして脚本家出身のダッフィールドは、生徒たちの原因不明の爆発死が相次ぐハイスクールの人間模様をつづった異色の青春コメディー「スポンティニアス」(20年)で監督デビューを飾った注目株。今回の監督第2作では〝エイリアンの地球侵略〟と〝家宅侵入〟を合体させたジェットコースターな娯楽映画に、意外なドラマを織り交ぜた。
 

テーマは贖罪 主人公の犯した罪とは

ブリンのような若い女性主人公が、町から遠く離れた森の屋敷にひとりで引きこもっているのはワケがある。実は少女時代にある〝罪〟を犯したせいで、地元のコミュニティーから村八分にされているのだ。だから、誰も彼女を助けてくれない。しかもブリンはそのつらい現実から逃避するようにして、自宅にメルヘンチックな装飾を施し、おとぎ話の住人のような日常を送っている。趣向を凝らしたプロダクションデザインで構築されたその世界観は、映画の後半に浮上してくる精神的なテーマの伏線になっている。
 
そのテーマとは、ずばり〝贖罪(しょくざい)〟だ。つまり本作はエイリアンの家宅侵入というシュールなまでに非現実的な出来事が、浮世離れしたひとりの女性を現実に引き戻し、忌まわしい過去のトラウマに向き合わせるという逆説的なストーリーなのである。そんな悲しくてフクザツな事情を抱えながらも、生き抜くために必死の抵抗を繰り広げるブリンを、知的で冷徹なエイリアンは興味深げに観察する。アメリカで長年、盛んに論じられている〝エイリアン・アブダクション(宇宙人による人間誘拐)〟現象への一解釈として見るのも一興だ。
 
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ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。
 

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