「小さき麦の花」 ©2022 Qizi Films Limited, Beijing J.Q. Spring Pictures Company Limited. All Rights Reserved.

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2023.2.10

「小さき麦の花」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

中国の農村。家族に厄介者扱いされる貧しい農民のヨウティエ(ウー・レンリン)は、障害のあるクイイン(ハイ・チン)と見合い結婚する。作物を育て家を作り、土にまみれ、ロバと共に質素だがぬくもりのある時間を重ねる。

わかりやすい豊かさからはみ出した暮らしだが、突然の嵐に泣き笑いしながら育んだ、2人だけの結びつきがある。自分には無理だとは思いながらも、こんなふうに互いを思いやり、生きられたらと夢想してしまうようなつつましくも揺るぎない愛情の形。

1983年生まれのリー・ルイジュン監督が描いた小さく特別な物語が中国でヒットしたのは、苛烈な格差社会を生きる若者の心に響いたからだろう。10カ月かけて撮影した映像には表情を変える自然の営みが映し出される。段ボールから漏れる明かり、麦の種を手の甲に押し当てて作る愛らしい花の印など、夫婦の幸せを伝える美しくシンボリックな場面に胸を締め付けられた。2時間13分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田(24日から)ほか。(細)

ここに注目

自然とともに物心両面でつつましく生きる姿は胸を打つ。育っていく小麦や光の使い方も美しく、2人の表情が柔らかくなっていくにつれ、見ているこちらにもいとおしさが積もっていく。ただ、ラストに厳しい現実を突きつけられる。生きるとは、そんな問いが幾度もあふれ出す。(鈴)

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