私ときどきレッサーパンダ   ©2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

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2022.4.17

オンラインの森:「私ときどきレッサーパンダ」 オスカー有力? 風通し良い青春コメディー

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品をお選びします。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子の3人です。

村山章

村山章

ピクサーの実力と先進性は健在


コロナ禍の影響で、ディズニーはピクサー・アニメーション・スタジオの新作長編の劇場公開を3本続けて取りやめた。ピクサーはディズニーの完全子会社なので、どうしてもディズニーが自社製作のアニメ映画を優遇しているように見えてしまうが(ただしピクサーの次作「バズ・ライトイヤー」は劇場公開が決まっている)、3DCG(三次元コンピューターグラフィックス)アニメのパイオニアであるピクサーの実力が落ちたわけでも、先進的な姿勢が失われたわけでもない。それを証明する快作が、先月からディズニープラスで配信が始まった「私ときどきレッサーパンダ」だ。
 
舞台は2002年のカナダ・トロント。中国系移民の娘で13歳のメイリンは、ある日突然巨大なレッサーパンダに変身してしまう。元の姿に戻る方法は気持ちを落ち着けること。どうやらメイリンの一族の女性は代々、感情がたかぶったり動揺したりするとレッサーパンダになってしまうらしい。ひと月後の赤い月の夜に呪いを解く儀式が行われることになるが、メイリンと友人たちは、変身能力を利用して大好きなアイドルグループ「4★TOWN」のコンサートチケットを手に入れようと画策し……。
 
監督のドミー・シーは2歳の時に中国からカナダに移り住んだ32歳の女性。本作の製作には4年が費やされたというから、20代の若さでピクサーの長編映画を任されたことになる。思春期の少女が過保護な母親と衝突したり、アイドルの推し活仲間との友情を深めながら成長したりしていく姿を、日本のアニメに影響された表現をふんだんに盛り込んでにぎやかなドタバタ劇に仕上げている。
 


ハリウッド的〝理想の家族〟の限界を越えて

ピクサーのアニメ作家は宮崎駿とスタジオジブリへのリスペクトを口にするのが常だが、ドミー・シーは幼い頃に「セーラームーン」に夢中になり、「うる星やつら」や「らんま1/2」の高橋留美子の大ファンだという。「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督も「幽遊白書」などのアニメやマンガのオタクだったことを公言しているし、もはや日本のアニメやマンガはハリウッドのトップクリエーターたちの血肉になっていると言っていい。
 
しかもドミー・シーは、この映画でさらに新しい地平に足を踏み出したように感じる。というのも、ピクサーやディズニーの多くの作品が、いや、ハリウッド映画のほとんどがとらわれている〝理想の家族〟という限界を、「私ときどきレッサーパンダ」がのびのびと飛び越えてみせているからだ。
 
多くの映画やフィクションは、主人公の成長のテーマとして「ありのままの自分を認めること」をうたう。しかし同時に、ハリウッド映画や娯楽作品の多くには「家族を大切に」という結論に達しなくてはならないという強迫観念のようなものがある。
 
例えば同じピクサーの「リメンバー・ミー」は、家族の絆を先祖の歴史と絡めて描いていて、主人公の血族がみな善人だと判明することによってハッピーエンドにたどり着く。ディズニーの「ミラベルと魔法だらけの家」は、家父長制の重圧からの解放をテーマにしているものの、家族内での反省によって家族のそれぞれが元通りの力と役割を取り戻して終わる。

 


優先すべきは自分探し 新たな価値観へ一歩

筆者はどちらの作品も、「個人の成長」が、より大きな〝理想の家族像〟という価値観に取り込まれてしまったように感じた。新しい価値観のレプリゼンテーションに積極的に取り組むハリウッドも、家族像についてはまだまだ保守的に感じることが多い。家族にはさまざまな形があり、血縁関係が助けになることもあれば、苦しみを呼ぶこともある。手放しで礼賛することで抜け落ちてしまうものもある。
 
「私ときどきレッサーパンダ」が、家族の大切さや素晴らしさを否定しているわけではない。むしろ母娘がお互いの絆を見直す物語として大いに感動的だ。しかしドミー・シーは、移民の家庭に育ったためにより強く感じていたという親からの期待や旧来の価値観からの重圧を、思春期の悩みに重ねて等身大に描いてみせた。肉親の愛情から得られるものは大きい。しかしメイリン個人の自分探しよりも〝理想の家族像〟が優先されてはならないのだと、劇中でのメイリンの決意が、そして「私ときどきレッサーパンダ」という作品が宣言しているのだと思う。
 
と、いささか小難しいテーマで書いてしまったが、とても風通しのいい青春コメディーであり、劇中のアイドルグループ(曲を提供したのはビリー・アイリッシュと兄のフィニアス・オコネル)の思わぬ活躍からクライマックスの怪獣映画風の見せ場まで、面白いネタや見どころが詰まっている。少し気が早いが、来年のアカデミー賞授賞式で長編アニメーション賞に輝くのは、きっと「私ときどきレッサーパンダ」に違いないと踏んでいる。

ディズニープラスにて見放題で独占配信中。

私ときどきレッサーパンダ

大好きなアイドルグループの推し活にいそしむ13歳のメイリンが、突然レッサーパンダに変身してしまう自分に戸惑いながら、過保護な母親との関係や、本当の自分らしさを見つめ直していく。

(C) 2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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