城定秀夫監督

城定秀夫監督

2022.3.28

インタビュー 「女子高生に殺されたい」城定秀夫監督 快作を連打

勝田友巳

勝田友巳

監督20年、手がけた作品100本超


監督歴20年、城定秀夫監督がついに来た。ピンク映画から出発して映画やVシネマなどを撮りまくり、その数100本超。知る人ぞ知る存在として注目され、2020年、みずみずしい青春映画の快作「アルプススタンドのはしの方」でブレーク。22年は「愛なのに」「女子高生に殺されたい」「ビリーバーズ」と3作が公開される。
 
人気俳優を起用し、公開館数も拡大。一気に全国区の勢いだが、当人は淡々と受け止めている。「『アルプススタンドのはしの方』で少しは世に広まったんですけど、『女子高生に殺されたい』はその前から動いてる企画だし、たまってたものがここに来て日の目を見たという感じです。名前が知られて、キャストが出てくれやすくなったことはあるかもしれないですね。ピンク映画の監督だからと警戒されることもあったんで、その点では動きやすくなったかな」
 



低予算のジャンル映画の中にユニークな人間洞察を織り交ぜる。10年ほど前からは特集上映も組まれるようになった。とはいえ映画への姿勢は、作家性を押し出すよりも職人的だ。
 

枠の中でいかに面白くできるか

「職人的なのが優先ですよね。枠をはみ出してどうやるかでなく、枠組み内で面白くやろうと。毎回求められるものが違う中で、少しでも自分らしいことをする。作家性なんか、見てる人には迷惑かもしれないんで。それなりに高いお金を払って、時間を使って見てくれる人を楽しませたい。こういうものしか撮らないというのはないし、来た仕事はなるべくがんばるみたいな感じです」
 
「女子高生に殺されたい」は古屋兎丸のマンガの映画化。「女子高生に殺されること」を夢みる春人が高校教師となり、その願望を実現しようと周到に準備を重ねてゆく。実は映画化を持ちかけられたのは別ルートで2度目。原作の連載中だった1度目は、権利関係が不調で立ち消えになった。「今回の話が来て『知ってるも何も、やりかけてました』と」
 
運命的な出会い。「登場する女子高生の数を増やす」というオーダーにも応えて脚本を書いたが、主役の春人を演じる俳優が決まらない。1年ほど過ぎ、また流れるかもと思い始めた頃、田中圭が受けてくれた。
 



人に言えない性癖抱える春人

「誰が演じるかはすごく重要だった。テレビの田中さんのイメージから、最初は『エッ!?』と意外な気持ちもありました。ただ『哀愁しんでれら』を見て、怖い役も似合うなと思って、これは楽しみだと。そこから春人をイメージしやすくなったし、脚本も直しました。田中さんがこういう役をやってみたいと受けてくれたので、思いは無駄にしたくないと、思い切りやってもらいました」
 
春人の願望は、女子高生に苦しみながら殺されること。しかも相手に迷惑をかけずに。性的妄想の方がまだ分かりやすい。
 
「人に言えない性癖は誰しもあると思うんですよ。それがたまたま女子高生に殺されることだった。共感は難しくても、自分がこういう願望を持っていたらどうするかなと考えました。そして春人を、ただの変態ではない、そんなに悪人じゃないようにしたかった。自分の願望を、人に迷惑をかけずにかなえようと、一生懸命考える。女子高生を変な目で見てるんだけど、性的な、いやらしい目ではない。田中さんの清潔感あるキャラクターとあいまって、うまくいったんじゃないかな」
 

裸でしかできない表現がある

映画監督を目指して武蔵野美大に入り、ロマンポルノと出合って興味を持った。大学卒業後にピンク映画の撮影現場の手伝いから業界入りし、2003年成人映画「味見したい人妻たち」で監督デビュー。成人映画を含めた映画やオリジナルビデオを年数本ずつ撮り続けた。
 
「日本映画が好きになったのは古典からで、黒澤明、岡本喜八といった監督たちだけど、自分が目指そうとは思わなかった。自分にやれそうで、面白かったのがロマンポルノだったんです」
「裸でしかできないことを表現している。人間の欲望がむき出しになって、みっともないところを全部さらけ出す。一般映画で一生懸命隠してる部分を、思い切りやる。そこがかっこいい。お金がかかってないのも、オレにもできそうだと。神代辰巳監督らロマンポルノの作家に憧れたのもありました」
 
予算も製作期間も厳しい中で、注文に応えつつ面白く。「与えられた条件でどうやるかで、頭がいっぱいでした。ポルノが下積みといった考えは全くない。これをやったら将来こうなるとか、考えないで20年やってきました」
 
このところの活躍、とうとう時代が追いついた?
「そんなことありませんよ(笑い)。約束破んないからじゃないですか。与えられた予算に収めてるし、締め切りはなるべく守る。映画のクオリティーのために戦うことはあるけど、あまり我は出さないですね。真面目にやるってことですよ」
一作ごとににじみ出る城定印、新作が楽しみな一人である。
 

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。