この1本:「私にふさわしいホテル」 陽性のオーラ、さく裂
文壇の内幕もの、日本映画にもけっこうある。「文学賞殺人事件 大いなる助走」(1989年)とか「響 HIBIKI」(2018年)、あるいは「騙し絵の牙」(21年)。ジャンルはさまざまだが、文学賞をめぐる駆け引きとか作家や出版社間の力関係とか、インテリの芸術家たちがエゴと欲をむき出しに泥仕合を繰り広げる姿は下世話で人間臭く、何よりバカバカしい。本作は柚木麻子の小説を、川尻恵太脚本、堤幸彦監督で映画化したコメディーだ。 舞台は昭和、作家の中島加代子(のん)は、新人賞受賞作を文壇の大御所、東十条宗典(滝藤賢一)に酷評されて以来、鳴かず飛ばず。人気作家を気取って文壇御用達の山の上ホテルに泊まると、東十...