オートクチュール  © PHOTO DE ROGER DO MINH

オートクチュール © PHOTO DE ROGER DO MINH

2022.3.24

オートクチュール

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

エステル(ナタリー・バイ)は、クリスチャン・ディオールのアトリエの責任者として働く引退間近のお針子。ある日、地下鉄でアラブ系移民2世の若い女性ジャド(リナ・クードリ)らにひったくりに遭う。ジャドはかばんの中に身分証明書を見つけ、返しにいく。エステルは怒るが、ジャドの繊細な指を見てアトリエに来ないかと誘う。

職人肌の技術者と才能ある若者のぶつかり合いや和解は、決して新味のある物語ではないが、バイらの安定した芝居や丁寧に描かれる手仕事に引き込まれる。登場人物はいい人ばかりで現実はもっと厳しいだろうし、お仕事映画としてももうひとひねりほしかったが、パリ郊外の団地や移民家庭の暮らしぶりも垣間見えて興味深い。華やかなファッションを支える裏方たちの熟練の技と気概、腕一本で生きていく覚悟と美への追究が伝わってくる。多くの人たちの支えが才能を開花させていく姿は若者へのエールにもなっている。シルビー・オハヨン監督。1時間40分。東京・新宿ピカデリー、大阪・なんばパークスシネマほか。(鈴)

ここに注目

階級や世代を超えて絆を深めていく女たちを描く展開に意外性はないが、母と娘の関係をもう一つの軸にした物語に、気持ちよく浸れる作品。スタッフがヒロインの手に針を刺して意地悪をするシーンなど、お約束の古典的な描写も高級メゾンの裏側を描くドラマを盛り上げている。(細)