ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 © 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

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2021.12.16

この1本:ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 公害に迫る不屈の信念

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

今年は異なるアプローチで水俣病という公害を描いた「MINAMATA ミナマタ」「水俣曼荼羅(まんだら)」の洋邦2作品が話題を呼んだが、本作は米国で起こった環境汚染問題の映画化。社会活動に熱心な人気俳優マーク・ラファロが、製作、主演を兼任した実録ドラマの力作である。

1998年、オハイオ州の法律事務所で働く弁護士ロブ・ビロット(ラファロ)が、ウェストバージニア州の農民から調査を依頼される。化学メーカー、デュポン社の工場から出た廃棄物のせいで、彼の農場が汚染されているという。廃棄物に関する開示資料を手がかりとして、ある危険な化学物質を探りあてたロブは、デュポン社による公害とその隠蔽(いんぺい)の実態に迫っていく。

「大統領の陰謀」「スポットライト 世紀のスクープ」などに代表される陰謀告発ものは、ハリウッドのお家芸。米国有数の巨大企業に立ち向かった実在の主人公ロブの良心と使命感、そして不屈の信念を、ラファロが静かな気迫をこめて体現した。

しかし、悪玉をやっつけて痛快なカタルシスを味わわせてくれるヒーロー映画ではない。地道な調査に途方もない労力を費やし、時には暗殺されるのではないかという極度の不安におののく。何とか集団訴訟にこぎつけた後も、血液検査データの検証に時間がかかり、原告住民などからプレッシャーを受ける。妻(アン・ハサウェイ)の支えを得ながらも、その苦悩の日々たるや無間地獄のよう。

ロブの闘いは十数年に及び、映画は人体に深刻な悪影響を及ぼすこの問題が、今も終わっていないことを伝える。日本人にとっても決して、よその国の出来事ではない。スリラーやミステリーの手法も交え、重いメッセージを見る者の胸にずしりと届けるトッド・ヘインズ監督、簡潔かつ繊細な語り口が秀逸だ。2時間6分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)

ここに注目

巨大企業が責任を認めず、抜本対策が遅れて被害が拡大し、損害賠償訴訟が数十年に及ぶ。その間に被害者側は分断され、企業城下町の住民は事を荒立てまいと考え始める。企業側が広報活動に資金を投下し、やがて世間の記憶も薄れていく。環境汚染に限らず、大企業の不祥事はそんな経緯をたどりがちだ。不正を許さないとの信念と怒りを十数年にわたって持ち続けたロブには頭が下がる。埋もれた英雄はロブだけではあるまい。そして、現在進行形の世界的大企業との争いを実名を出して映画化する米映画界には、いつも驚かされる。(勝)

技あり

ヘインズ監督はエドワード・ラックマン撮影監督を「彼ほどディテールにコミットする人を知らない」と評する。柔らかなレンズと雨と曇りばかりの撮影で、フィルムルック(映像の外形)を作った。ロブの真俯瞰(まふかん)から、下手への歩きにつれて横にパンしていくカットのように、ケレン味を感じるところもある。だが、本質は地味な努力を重ねた画(え)にある。例えば弁護士事務所の会議。テーブルには書類の山、弁護士たちは自由な姿勢で話を聞く。それぞれの照明や構図が細かく工夫されている。監督が「完璧主義者」と言うわけだ。(渡)

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