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2022.5.25

映画への愛と、映画業界への貢献には、称賛を惜しまない「トップガン マーヴェリック」

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

金子裕子

金子裕子

あの「トップガン」(1986年)の続編が登場するとは思わなかった。最初にニュースを目にした時には「大丈夫?」と危惧しながらも「トムがヤル気なら、期待できる」と期待もした。そしていま、完成品「トップガン マーヴェリック」を見て、大満足。やっぱり、トム・クルーズはスゴイ! 大スターでありながら、その持てるパワーとエネルギーのすべてを映画に注ぎ込む辣腕(らつわん)のプロデューサーであることを、改めて確認した。


プロデューサーとしても先見の明あり

ちなみに、「トップガン」続編製作の話はこれまでに何度か浮上しつつも消滅している。しかし、ゴーサインの権利を持つトム・クルーズが今作の脚本に納得して完成までこぎつけた。つまり、大ヒット作の続編製作の権利を昔から保持していたとは、プロデューサーとしても先見の明ありということだ。

トム・クルーズ来日会見 続編を考え続け、準備してきた36年だった「トップガン マーヴェリック」

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戦闘機のGは、馬に乗られたくらい重い

さて、三十数年の時を経て“Go!”サインを出したのは、そこに<新しい挑戦>の可能性を見いだしたからだという。プロダクションノートによれば、さまざまな挑戦の壁を、粘り強く、細心の注意を払ってクリアしてきたことに感心し、納得してしまう。なかでも「空撮はCG(コンピューターグラフィックス)ではなく本物を撮ること。キャストはノースタント」というこだわりは、いかにも「他の俳優よりも数多く飛行シーンを経験してきた、自称・曲芸飛行のパイロット」と言うトムらしい。そして、その言葉を実践するために、キャストたちはトム自らが作ったトレーニングプログラムをこなし、戦闘機の想像を絶するG(重力加速度)に耐えうる身体作りに励み、実際に戦闘機に乗り込んでGに耐えながら演技し、時には積み込まれたIMAXカメラを操作し……。このプロセスだけでも、いかに臨場感あふれる未曽有の空撮シーンが楽しめるかわかろうというもの。いや〜、戦闘シーンなど、無意識のうちに息を止め身体に力が入ってしまうくらい。マーヴェリックのセリフじゃないが、「戦闘機のGは、馬に乗られたくらい重い」を体感だ。

オールドファンは感涙し、新世代ファンは「カッコいい!」と胸躍らせる

ともあれ、映像の素晴らしさは言わずもがな。となれば、旧作につながるストーリーが問題だ。
スタートは、トム演じる伝説のパイロット:マーヴェリックがアメリカ海軍のエリートパイロット養成学校(トップガン)に、極秘任務を遂行する精鋭チームを訓練する教官として帰ってきたところから。しかし、その訓練生の中に、マーヴェリックの親友だったグースの息子ルースターがいた。彼は、訓練中に命を落とした父とバディーを組んでいたマーヴェリックを恨んでいて……。これ以外にも、ライバルだった“アイスマン”(オリジナルキャストのヴァル・キルマー出演!)との絆など、前作で描かれた心に残るエピソードを丁寧にすくいあげ、それぞれが過ごしてきた三十数年間の人生をのぞかせつつ今につなげるテクニックは鮮やか。新しさと懐かしさのバランスが絶妙で、オールドファンは感涙し、新世代ファンは文句なく「カッコいい!」と胸躍らせるはず。

“カッコいい男”の代名詞

そう、今年7月には60歳になるというのに、本作で披露する、フライトジャケットを身にまとってカワサキのバイクをかっ飛ばす姿の、なんとカッコいいことか!
40年以上にわたるトムのキャリアのスタートは、“白い歯キラリ“のまばゆい美貌が注目された「卒業白書」(83年)に始まり、「トップガン」の世界的な大ヒットで“カッコいい男”の代名詞となった。これは、永遠だ。

素晴らしい物語を作り、世界を楽しませたい

しかし“美形俳優あるある”ではないが、一時は美貌ばかりが注目されて、なかなか演技への評価が得られなかった。その焦りからなのか、「7月4日に生まれて」(89年)では、無精ひげで美貌を封印し車椅子のベトナム帰還兵を熱演。アカデミー賞主演男優賞候補にはなったものの、評判はいまいちだった。いやいや、トム・クルーズは美貌を隠さずとも演技で勝負できる俳優なのだ。たとえば、ダスティン・ホフマン演じるサバン症候群の兄と絆を深めていく弟を演じた「レインマン」(88年)では、膨大なセリフをしゃべり続ける圧倒的な演技で物語をリード。また「ア・フュー・グッドメン」(92年)ではキューバにある米軍基地に君臨する司令官をド迫力で演じたジャック・ニコルソンと堂々と渡り合う海軍法務部所属の弁護士に扮(ふん)し、まばゆい軍服姿とともにすがすがしい正義の男を好演している。もちろん、この他にも「ザ・エージェント」(96年)、「マグノリア」(99年)でオスカー候補にもなっているのだが、トムの映画への思いは満たされない。なにしろ、彼の目的は「素晴らしい物語を作り、世界を楽しませたい」だから。

<クルーズ/ワグナー・プロダクションズ>を設立

そんな願いを思い切り自由に具現化するために92年にはポーラ・ワグナーと共同で製作会社<クルーズ/ワグナー・プロダクションズ>を設立。96年、初の製作&主演作「ミッション:インポッシブル」を世界に披露し、プロデューサー業にも進出。しかもそれからの26年間、今に至るまで「ミッション:インポッシブル」シリーズは大ヒットを重ね、第7弾が2023年、第8弾が24年の公開が予定されている。驚異だ! 

映画が好きでたまらない

私が初めて会見したのは「トップガン」から6年後、92年の「遥かなる大地へ」を携えての来日時。それから「ミッション:インポッシブル」シリーズが公開されるごとに数回お会いしているが、毎回、その映画への情熱と超人ぶりに圧倒されるばかり。「映画が好きでたまらない。なにかしら映画に関することをやっていたいんだ」と言うトムは、平均睡眠時間4〜5時間。それ以外は、ほとんど撮影をしているか、自宅にある編集や録音スタジオにこもっているという。

名匠たちとタッグを組みながら吸収してきた知識と情熱

聞けば、「トップガン」に起用された当初から「映画のことを全部知りたい、学びたい」と願い、どんな場にも積極的に参加し、多くの監督に食らいついてきた。フランシス・フォード・コッポラ、リドリー・スコット、マーティン・スコセッシ、ロブ・ライナー、スタンリー・キューブリックetc. 映画史に燦然(さんぜん)と輝く多くの名匠たちとタッグを組みながら吸収してきた知識と情熱を、いま後進たちに惜しみなく伝えるトム。
その映画への愛と、映画業界への貢献には、称賛を惜しまない!

ライター
金子裕子

金子裕子

かねこ ゆうこ 映画ライター 映画ペンクラブ会員
 「週刊平凡」「HANAKO」(ともにマガジンハウス刊)などでキャリアをスタートさせ「CREA」(文藝春秋社)などの女性誌を始め、映画専門誌などで映画紹介、俳優・監督インタビューなどを執筆。現在「SWEET」宝島社)、「DUET」(ホーム社)、雑誌&Web「チャンネルガイド」(日宣)、「毎日が発見」(KADOKAWA)、「Stereo Sound ONLINE映画スターに恋して」などでレギュラー執筆。共著として「KEEP ON DREAMING 戸田奈津子」「ときめくフレーズ、きらめくシネマ」(ともに双葉社刊)