毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.5.27
この1本:「トップガン マーヴェリック」 満を持し破格の熱さで
「トップガン」(1986年)でスターとなったトム・クルーズが、満を持して製作した続編だ。マーヴェリック(クルーズ)は退官間際の年齢のはずだが、まだ大佐。テストパイロットとして戦闘機に乗り続け、相変わらず現場でムチャをする。年下の上官に疎んじられて、戦闘機を降ろされそうになる。しかし、提督にまで上り詰めた盟友アイスマン(ヴァル・キルマー)の計らいで、古巣のミラマー基地に転属した。
ここでの任務は、某国のウラン精製工場破壊作戦に参加する、若きトップガンの訓練だ。敵のレーダーとミサイル網をかいくぐり、複雑な地形を縫って飛ぶ命がけの作戦。鼻っ柱の強い若者たちを、悩みながら導くことになる。
クルーズが30年以上にわたって構想を練り、その間蓄えた経験や知識を投入したという。俳優たちに音速の圧力に耐える訓練をした上で戦闘機に乗せ、操縦席に設置するカメラを開発して撮影した。
どんな絵柄でもコンピューターで創造可能な時代。兵士が課されたミッションはゲームのように現実味がないから、他の作品なら安っぽくなるところ。前作で死んだ相棒の息子、ルースターとの確執、古なじみとして登場するペニー(ジェニファー・コネリー)との恋模様も定石通り。それでも、資金と労力を惜しまず費やして作った映像の迫力は本物だ。
前作をなぞる場面も織り込み、音楽も踏襲。80年代風の映像と合わせて前作のトニー・スコット監督に敬意を払いつつ、スケール感は比較にならない。おいしいところは全部マーヴェリックがさらうトム様映画だが、息子ほどの兵士と半裸でビーチフットボールをして遜色ないマーヴェリックを、他の誰が演じられようか。
前作を知らずとも、熱気に当てられるだろう。ここまでされたら脱帽するしかない。ジョセフ・コシンスキー監督。2時間11分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)
ここに注目
トム・クルーズが体現したマーヴェリックは、限界超えに挑み続ける男として描かれる。そんな常識破りの主人公の情熱を最大限に強調すべく、本作では途方もなく難易度の高いミッションが用意された。今のご時世、他国の領空を侵犯して破壊工作を行うなんて「国際法違反だ」とつい思ってしまうが、心配は無用。4機のF18が山岳地帯の谷間を猛スピードで低空飛行していく、クライマックスのスペクタクルに興奮また興奮。怒濤(どとう)のスカイアクションと情感たっぷりのドラマが混然一体となり、特別なカタルシスを堪能できる。(諭)
ここに注目
前作は小学生の頃に見たきりで内容はうろ覚えだったが、テーマ曲「デンジャー・ゾーン」が流れると、派手なアクションに彩られた作品の世界観が一気によみがえった。マーヴェリックは相変わらず破天荒で、やんちゃな少年のよう。スピード感あふれるアクロバティックなシーンは目が回りそうなほど、臨場感にあふれ、自分がパイロットになったのかと錯覚してしまう。マーヴェリックに対して葛藤を抱えるルースターとの師弟関係は胸にぐっとくるものがあった。アイスマンとの再会も、前作のファンにはたまらないはず。(倉)