第56回で男優主演賞を受賞した「忘れられぬ人々」の三橋達也

第56回で男優主演賞を受賞した「忘れられぬ人々」の三橋達也

2022.2.14

毎日映コンの軌跡⑥ 俳優への演技賞 派手さよりも芸術性に支持

「毎日映画コンクール」は1946年、戦後の映画界復興の後押しをしようと始まりました。現在では、作品、俳優、スタッフ、アニメーション、ドキュメンタリーと、幅広い部門で賞を選出し、映画界の1年を顕彰しています。日本で最も古い映画賞の一つの歴史を、振り返ります。毎日新聞とデジタル毎日新聞に、2015年に連載されました。

映画の華は、やはり俳優。映画賞も男優、女優の顔ぶれが注目される。第1回(1946年度)毎日映コンは演技賞を小沢栄太郎に贈った。

「大曽根家の朝」で旧弊な陸軍士官を演じた小沢は脇に回ることが多かった。第1回からその渋い性格俳優に賞を与えたことにも、芸術性を重んじようという映コンの姿勢がうかがえる。その後、演技賞は男女優各1人が選ばれるようになり、断続的だった助演賞も第38回から定着する。受賞者の顔ぶれを見ると一貫して、演技派に支持が集まるようだ。

第17回の男優主演賞は「人間」の殿山泰司。牛原虚彦監督は講評で「内的なゆたかな蓄積が、この人の演技の無限のひきだし、内臓から身体全体へ、また、その機能へ、毛細管をつたわる血のように自然に流出する」とたたえた。第22回は「若者たち」の田中邦衛、第37回では「マタギ」の西村晃。いずれもいぶし銀の名優だ。一方、長谷川一夫、市川雷蔵、石原裕次郎ら時代のスターは分が悪く、候補にはなっても受賞には至らない。男優の最多受賞は、小林桂樹の5回(第10回「ここに泉あり」で助演▽第13回「裸の大将」▽第15回「黒い画集」▽第18回「白と黒」など▽第54回「あの、夏の日とんでろじいちゃん」で主演)。小林は「受賞はこの上ない励み」「対象になった映画が、演技開眼をもたらした作品。それだけコンクールの受賞は意味がある」と語っている。

第56回の男優主演賞は、大ベテランの三橋達也。ほぼ30年ぶりに、「忘れられぬ人々」に出演した。「女の中にいる他人」で第21回の助演賞を受賞したが、この時は「成瀬巳喜男監督に報告に行ったら『あれは主演じゃないのか』と言われましてね」とずいぶん悔しかったという。念願の主演賞を喜んで「お礼を言いたい」と、毎日新聞東京本社を訪ねてきた。