「Arc アーク」  (c)2021映画『Arc』製作委員会 

「Arc アーク」 (c)2021映画『Arc』製作委員会 

2021.6.24

Arc アーク

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

初産の赤ん坊を捨て、流浪の人生を送る少女リナ(芳根京子)が、エマ(寺島しのぶ)という女性と出会い、遺体を生前の姿のまま保存する技術を学び始める。一方、エマの弟の天音(岡田将生)は、不老不死の研究に没頭。やがて天音と引かれ合うリナは、人類初の〝永遠の命〟を得た存在となるが……。

中国系米国人作家ケン・リュウの短編小説「円弧」の映画化である。30歳の若さを保ったまま年を重ねていく女性の数奇な人生を通して、生きる意味という根源的なテーマを探求した。日本映画では珍しい思索的なSFだが、その根底には東洋的な死生観が流れ、決して難解ではない。しかし主人公が終盤にある決断を下すまでの〝心〟がなかなか見えてこず、ただ漠然と時が流れていくかのよう。CGに頼らず、既存の建物や風景によって数十年間の時間軸を描いた挑戦的なアイデアは支持したいが、SFならではの驚きや深遠さを創出するには至らなかった。石川慶監督。2時間7分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・あべのアポロシネマほか。(諭)

ここに注目

限りある命を生きる身としては、遺体の保存や不老不死の技術は命をもてあそんでいるようにも思えた。だが永遠の命を手にできたとしたら、この考えも変わるのかも。外見は若いままでも、年齢を重ねていくことで生まれる老成した雰囲気を芳根がうまく表現していた。(倉)