この1本:「ある男」 切実な過去を受け入れ
愛していた男が実は別人で、いったいその男は誰だったのか。映画やドラマで何度も取り上げられてきた設定だが、群を抜いている。ドラマの密度やリアリズム、精緻な演出と役者のたたずまいに目を離す隙(すき)がない。骨太なエンターテインメント作品だ。 里枝(安藤サクラ)は離婚を経て、子どもを連れ故郷に戻る。森の伐採現場で働く「大祐」(窪田正孝)と知り合い再婚する。ある日、不慮の事故で「大祐」が命を落とす。法要で夫が名前も分からぬ別人であることが分かる。里枝は弁護士の城戸(妻夫木聡)に身元調査を依頼する。 平野啓一郎の原作のエッセンスを凝縮して石川慶監督、脚本の向井康介が丁寧に映像化。描写に無駄がない。物...