©️ 2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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2024.4.17

前作対比112%「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」の過去最高スタートの仕掛けに迫る

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

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劇場版「名探偵コナン」の最新作となる第27作「100万ドルの五稜星(みちしるべ)」が4月12日に封切られ、初日の興行収入9.6億円・動員63万人、初週3日間で興収33億円・動員227万人という歴史的大ヒットスタートを切った。歴代最高だった前作「黒鉄の魚影」(興収138.8億円)の対比112%というシリーズ史上最大のオープニング興収となり、最終的な興収がどこまで数字を伸ばせるかにも注目が集まっている。


 

〝入プレ〟を行わない

昨今の劇場映画の施策として邦画・洋画・アニメ等にかかわらず「入場者プレゼント」を週替わりで実施して集客にブーストをかけるものがあるが、こと劇場版コナンにおいては〝入プレ〟を行わない。つまり、特典目当てで劇場に足を運ぶ観客が存在しないのだ。そもそも原作は今年連載30周年を迎えた長寿シリーズであり、劇場版も27作品目。にもかかわらず年々数字を積み上げているのは驚異的だ(親子3代でのファンも少なくないと聞く)。長く続いてもファンが縮小したり代替わりしたりするどころか増えていく――そういった意味でも、「名探偵コナン」という作品自体のコンテンツ力の強さをうかがわせる。
 

満遍なく拾えている印象

漫画のメディアミックス作品においては原作ファンが必ずしもアニメ等に流れるわけではなく、逆もまたしかりだが、劇場版コナンの場合は「原作ファン」を中心とするコア層、そして「劇場版オンリー」のライト層も満遍なく拾えている印象だ。本稿ではそうした視点で、「100万ドルの五稜星」に施された〝仕掛け〟を見てゆきたい。
 

事前に試写会を行わない

まず本作においては、事前の一般向け試写会を行わない形が取られた。劇場版コナンほどのビッグタイトルとなれば全国主要都市で試写会を行い、〝見せ込み〟を行うことで口コミを加速させ、公開日に向けた盛り上がりを作っていくのが通例。しかし「100万ドルの五稜星」においては、事前に試写会を行わないというアナウンスがなされた。前作「黒鉄の魚影」の試写会で一部の観客がネタバレを行ってしまったのも大きいだろうが、そうした事情があってもネガティブな告知にはせず「今回は怪盗キッドの秘密が明かされるため行わない」と〝それだけすごい内容になる〟と観客をあおりつつ、しかも〝試写状を怪盗キッドに盗まれた!〟という建て付けにしてファン心をくすぐるプロモーション戦略もうまい。
 

Netflix等でも配信を開始

もちろん公開タイミングに合わせて金曜ロードショーで過去作を放送したり、マクドナルドやスポティファイとのコラボレーションを行ったりと露出も大量に行い、テレビやネット、雑誌に街頭広告とリアル/デジタルでユーザーが何かしらには触れるような仕込みにも余念がない。元々劇場版コナンは配信サービスで見放題にはなっておらず、公開タイミングに合わせてHulu等で見られるようになる(この時期だけ期間限定で復活する)パターンを取っていたが、今年はそれに加えてNetflix等でも配信を開始。しかも全作品ではなく、「100万ドルの五稜星」に関連するエピソード(怪盗キッド、服部平次、遠山和葉の登場作)を中心にしている。実際、Netflixのランキング上位を独占しており、この試みは成功したといえるだろう。
 

風物詩になるまで刷り込んできた

かつ、歳月をかけて「ゴールデンウイーク近辺は劇場版コナン」と風物詩になるまで刷り込んできた点も重要だ。公開時期が毎年近かった「映画クレヨンしんちゃん」は2023年の「しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜」から夏公開に変更され、シネコンも通常スクリーンだけでなくIMAX等のラージフォーマットも劇場版コナンに明け渡す結果になり(スクリーンが限られているため争奪戦になるのだ。洋画大作の日本公開が劇場版コナンと同時期を避けて組まれることもあると聞く)、もはや一強感が漂う。
 

単体作品に見せながら実は原作と完全にリンク

さまざまな宣伝戦略を取りつつ、「ファンへの寄り添い」の意識が強い(ライトに広げるよりもコアを大切にする)のが劇場版コナンの特徴であり、それが故に「このキャラを100億の男/女にしたい」という〝推し活動〟が加速する。ただ、広報がいくら頑張っても肝心の中身=映画自体がファンに愛されなければ本末転倒。しかし、劇場版コナンにおいてはそれは杞憂(きゆう)だ。単体作品に見せながら実は原作と完全にリンクしており、情報の〝先出し〟すら行われる仕様になっている。
 

原作者自らが描き下ろすという〝連携〟

元々劇場版コナンシリーズは1作目の「時計じかけの摩天楼」から一貫して、原作者の青山剛昌がアニメーターとしても参加している。キモとなるシーンを原作者自らが描き下ろすという〝連携〟が当初から行われており、原作とのリンクや掘り下げも細やかだ。コナン/新一の誕生日や毛利小五郎・妃英理夫婦の過去編が描かれて原作にも還元されてゆき、第18作「異次元の狙撃手」では原作に先んじて、沖矢昴の正体が明かされた。「黒鉄の魚影」では灰原哀の過去編やキャラクターの掘り下げががっつりと行われており、本作「100万ドルの五稜星」においては原作の根幹にもかかわる衝撃的な新事実が判明する。しかもさまざまなキャラクターの見せ場のシーンを青山が描き下ろすとなれば、ファンが参加しない選択肢はない。
 

クオリティも高いという離れ業

「原作のエピソードをアニメ映画化する」でもなく「原作とはつながらないオリジナルエピソード」でもなく、「アニメオリジナルながら原作ともリンクする」仕様でクオリティも高いという離れ業をやってのけているのだ。かつ、「100万ドルの五稜星」においては「名探偵コナン」だけでなく青山の別作品「まじっく快斗」「YAIBA」のキャラクターも登場し、ユニバース状態。オールドファンには感涙ものの仕掛けが施されている。さらに「平次がコナンを抱き上げてサポートする」「鈴木園子の有能ぶりがさりげなく描かれる」「和葉の聴力が優れている設定が引き継がれている」等々、謎解きに大きく関わる部分からそうではないところまで、キャラクターへの愛情と理解度がすさまじい。
 

キャラクターの一貫性にブレがない

劇場版コナンは「爆破」が代名詞になっているほどド派手なスペクタクルシーンが立て続くため、ともすれば原作の世界観を壊したり超越したりしかねない危険性をはらんでいるのだが、キャラクターの一貫性にブレがないため、ファンにおいてもスッと受け入れられる部分が大きいのではないだろうか。服部平次と怪盗キッドの間に確執がある「キスの恨み」においても、原作→TVアニメで描かれた内容であり、きっちりとつながっている。ちなみに、100万ドルの五陵星」に合わせて発売された原作コミックス105巻には「服部平次&遠山和葉」「怪盗キッド」の登場エピソードが収録されており、少年サンデー掲載時から逆算していたと考えると実に用意周到だ。
 

コナンのファンにとどまらず

ここまではファン目線で「100万ドルの五稜星」がいかに必見かを紹介してきたが、北海道函館を舞台に新選組が関わる歴史ミステリーが展開する本作は、コナンのファンにとどまらず歴史好きや旅行好きにも刺さるような内容となっており、刀を集めていくことで財宝の隠し場所がわかるというミステリー&冒険ロマン的な要素もあれば、空を飛ぶセスナの上で戦うという「ミッション:インポッシブル」ばりのアクションも用意されている。仮に名探偵コナンに詳しくなかったとしても、楽しめる要素がカバーされているのだ。ファン感謝祭としての役割も娯楽大作としての質も担保しているため、観客がそれぞれのレイヤーで楽しめる。展開も相当スピーディーで小気味よく、内容もしっかり濃い「100万ドルの五稜星」はシリーズ最高興収の金星を勝ち取れるのか、今後の動向を注視したい。

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ライター
SYO

SYO

1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。