興収100億円を突破し快進撃を続ける「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」© 2023 Nintendo and Universal Studios

興収100億円を突破し快進撃を続ける「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」© 2023 Nintendo and Universal Studios

2023.6.21

「ワンピース」「スラダン」メガヒット連発東映 臨時ボーナス50万円! 経済記者が解説 興収100億円ってどのくらい?

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山口敦雄

山口敦雄

2022年末から23年にかけて、「THE FIRST SLAM DUNK」(22年12月3日公開)、「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」(23年4月14日公開)、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(同28日公開)と、興行収入100億円を超える特大ヒット作が相次いでいる。興収10億円がヒットの基準とされる業界で、「100億円」は高い頂。興行通信の「歴代ランキング」によると興収100億円を超えた作品は、6月11日時点で45本(うち邦画は17本)しかない。といっても「100億円」の規模感、今一つピンとこないという向きも多いのではないか。いったいどれだけすごいのか――。
 

アニメがけん引、興収100億円超連発

おさらいしておくと、「興行収入(興収)」は映画館で上映された映画の入場料に入場者をかけた金額。つまり映画のチケット販売額の合計だ。一方で興収のうち、映画配給会社の取り分を配給収入(配収)という。
 
日本映画製作者連盟(映連)が発表した統計によると、22年公開作品で興収100億円を超えたのは「ONE PIECE FILM RED」(197億円)、「劇場版 呪術廻戦0」(21年12月公開、138億円)、「すずめの戸締り」(131.5億円)、「トップガン マーヴェリック」(135.7億円)の4本(23年1月時点。映連統計では、12月公開の正月作品は翌年に換算される)。「トップガン」以外はすべて邦画のアニメーションだ。


「名探偵コナン 黒鉄の魚影」©2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

「コナン」公開1カ月で東宝年間総興収の6分の1

その後もアニメの快進撃は続く。22年12月3日公開の「SLAM DUNK」、23年になって公開された「黒鉄の魚影」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が相次いで100億円の壁を突破した。
 
「黒鉄の魚影」は4月14日に劇場公開され、最初の週末3日間で興収31億4000万円を超えるロケットスタートを切った。その後も順調に客足が伸び、シリーズ26作目にして初めて興収100億円を超えた。配給の東宝によると、公開から1カ月の5月14日に111億円を突破し、6月11日現在で興収128億円、観客動員数904万人に上るという。東宝の22年の累計興収は628億円だったから、「黒鉄の魚影」は、1カ月で昨年の6分の1の水準に達する。

〝悲願〟達成東映「最高の結果」

東映は「ONE PIECE FILM RED」「SLAM DUNK」と、立て続けに100億円超え。21年3月に公開された「シン・エヴァンゲリオン劇場版」も興収102.8億円だったが、東宝との共同配給。同社単独配給で100億円を超えた作品はこれまでになく、まさに〝悲願〟だった。1951年に創業した同社にとり「史上最高の結果となった」(多田容子広報室長)。
 
東映の22年の年間興収は325億円と、過去最高だった09年の179億円を超えて歴代1位になった。「ONE PIECE」だけで、これまでの最高だった09年の興収を上回ったことになる。23年3月期連結決算で当期(最終)利益が前年同期比67.4%増の150億円の黒字となり、正社員(嘱託を含む)432人全員に一時金50万円を一律支給した。
 
多田室長は、興収100億円の規模感について「日本の総人口のうち何人が映画を見たか」をみるのが分かりやすいのではないかという。

国民12人に1人が見た「SLAM DUNK」

「SLAM DUNK」の興収は、6月5日時点で144億円、観客動員数は1000万人を超えた。国連人口基金が今年4月に発表した「世界人口白書」によると日本の総人口は1億2330万人。単純に計算すると国民の12人に1人が見たことになる。「ONE PIECE」は観客動員数1427万人だから、8.6人に1人の人がこの映画を見たことになる。
 
「1000万」の比較で、マンガ以外の累計発行部数1000万部超えの本を探してみると、村上春樹の代表作「ノルウェイの森」(講談社刊)の累計部数が1172万6000部だった(単行本、文庫、電子版を含む)。ブームとなった黒柳徹子の「窓ぎわのトットちゃん」は、国内累計800万部(単行本、文庫などを含む)。書籍の発行部数は出版社が本を印刷した数字なので、純粋に興収と比較できないが、「書籍で1000万部を超えは相当ハードルが高い」(講談社広報)という。


Jリーグの入場料収入合計は「ONE PIECE FILM RED」に及ばない。選手に声援を送る浦和レッズのサポーター=宮武祐希撮影

Jリーグ年間入場料収入166億円

「100億円」という数字に近いのが、サッカーJリーグの年間入場料収入だ。「日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)」が5月に公表した資料によると、23年3月期決算の柏、湘南の2クラブを除いた最上位リーグ「J1」16クラブ(12月期、1月期決算)の22年度の入場料収入は118億2200万円。J1からJ3までの56クラブの合計入場料収入は166億円だった。
 
なおリーグ戦やカップ戦などを含むJリーグの全試合の総入場者数は約812万人。入場料収入が一番多かった浦和レッズでも、14億3900万円、リーグ戦とカップ戦全19試合の総入場者数は約45万人だ。
では「100億円」は日本経済のなかで、どのような意味があるのか。東京証券取引所の最上位「プライム」市場の上場基準は「最近1年間における売上高が100億円以上である」ことが条件の一つ。「黒鉄の魚影」などは、僅か1カ月足らずのチケット販売だけで、その数字を超えたことになる。


「名探偵コナン 黒鉄の魚影」1作で、東証プライムの基準クリア!? 東京証券取引所=宮武祐希撮影

「格差どころじゃない」弱肉強食顕著に

映画会社にとって「興収100億円」の連発は喜ばしい話だが、業界全体としてはそうとも言えない。複数のスクリーンを持つシネマコンプレックスは、特大ヒット作が出るとその作品ばかり集中的に上映する傾向が強まっているからだ。
 
その結果、特大ヒット作とその他の映画作品との間に大きな格差が生じている。ある映画業界関係者によれば「格差どころではない。悲惨だ」。シネコンは特大ヒット作を詰め込めるだけ詰めて利益を上げるから「その他の作品はかけてもらえなくなっている」。
 
ヒットの見込みのない作品はすぐに消え、当たっている、当たりそうな映画ばかりがスクリーン数を増やしていく。上映回数が増えてメディアで「大ヒット」が言い立てられ、相乗効果で興収100億円に到達――という勝ちパターンが出来上がりつつある。映画の興収100億円は「弱肉強食」の社会の縮図なのかもしれない。

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ライター
山口敦雄

山口敦雄

やまぐち・あつお 毎日新聞経済部記者。1974年生まれ。明治学院大法学部卒、同大大学院経営学修士。ビジネス誌「週刊エコノミスト」編集部記者、毎日新聞出版図書第二編集部編集長、学芸部記者を経て経済部。経済部ではメガバンク、財界、デジタル庁などを経て、ビジネスサイト「経済プレミア」を担当。著書に「楽天の研究」(毎日新聞社)がある。

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