「あつい胸さわぎ」  ©2023 映画「あつい胸さわぎ」製作委員会

「あつい胸さわぎ」 ©2023 映画「あつい胸さわぎ」製作委員会

2023.1.27

「あつい胸さわぎ」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

港町で暮らす千夏(吉田美月喜)と母の昭子(常盤貴子)。芸大に通い小説家を目指す千夏は初恋の思い出をつづる課題に取り組む中、幼なじみの光輝(奥平大兼)への思いを書こうとしている。昭子は職場に赴任してきた木村(三浦誠己)の人柄に触れ、ひかれ始めていた。そんなある日、千夏が乳がん検診の再検査を受けることになる。

原作は演劇ユニットiakuの横山拓也が作・演出を務めた同名舞台。若年性乳がんが題材だが、まつむらしんご監督は10代の恋と母娘の関係をあくまでも軽やかに描き出した。母は娘を愛するが決して聖母ではなく、娘は大人と子供のはざまで心と体を持て余す。遠慮なく本音をぶつける母娘の会話が深刻なムードに傾きそうになると、関西弁のリズムで笑いが運ばれてくる。そのバランスが心地いい。

昭子の同僚(前田敦子)、千夏の友人(佐藤緋美)ら完璧ではない人物たちとのつながりも描きつつ、市井の人たちのたくましさをたたえる人間ドラマだ。1時間33分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)

ここに注目

前田敦子演じる奔放な透子、佐藤緋美が演じた障害があるらしい崇の配置が利いている。千夏の迷いや弱さを映す一方で、救いとなり支えともなる。世の中は思うに任せないけれど、捨てたもんでもない。ほろ苦い10代の成長に陰影を与えた。特に、終幕の崇の心遣いにはホロリ。(勝)