©️2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

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2023.12.07

20歳が見た「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」今の私と同年代の等身大の人々が存在していた

古庄菜々夏

古庄菜々夏

「ヒーローは自分以外の誰かを救うために自分や自分の大切な人を犠牲にする。しかし、ヒールは自分や大切な人のためにその他大勢を犠牲にする」。最近友達とこんな話をしたことを思い出した。
 
学校生活や家庭に憤りを感じる高校生の百合はうまくいかないのはすべてが父親のせいだと母親に言い放ち家を飛び出す。百合の父親は溺れた子供を助けるために川に飛び込み、子供を助け自らの命を落としてしまっていた。大切な百合と母親を残して。子供にとって百合の父親はヒーローだが、百合はヒールでかまわないから生きてほしかったのだ。


 

ヒールでもいいから生きていて欲しい

雨宿りの防空壕(ごう)の跡、百合が目を覚ますと、そこは1945年終戦間近の日本だった。現代とはかけ離れた〝戦時中〟にひとり戸惑う百合だが、そこで出会った彰に何度も助けられ次第にひかれていく。しかし彰は〝お国のため〟に自分の命をかけて飛び立つ特攻隊員だった。自分たちを残して逝ってしまった父を受け止めきれないのと同じように、自分と同年代の少年たちが命を懸けて飛び立つことを理解できないし、受け入れられない百合。ヒールでもいいから生きていてほしいと思うのだ。

 

夢のために自らの命をかける

百合はあと少しで戦争が終わることも、日本が負けることも、その後戦争のない日本が存在することも全て知っている。「日本は負ける、命を懸ける必要なんてない」と説得する百合。それに対し彰は「僕は戦争の時代に生まれてしまったが、これから生まれてくる子供たちには同じ思いをしてほしくない」と言う。この一言に私ははっとした。彰は決して絶望を見ているのではなく、戦争が終わる未来も平和な日本が訪れることも夢見て、その夢のために自らの命を懸けるというのだ!

 

私と同年代の等身大の人々

こうした覚悟の上、特攻隊に配属され数週間で現世や家族、愛する人との永遠の別れを決意し、大空に飛び立った若者が大勢いた事実を私たちはもっと知り、思い出すべきではないか・・・・・・。
 
私は中学の修学旅行で鹿児島県南北州市知覧特攻平和会館を訪れたことがある。もう5年以上前のことだが、壁にずらりと並べられた特攻隊員の写真や展示されていた遺書の数々は今でも脳裏に焼き付いている。父、母、家族や愛する人を思う気持ちがつづられていた。
 
当時、平和会館を訪れ見学するだけでは受け止めきれなかった戦争、特攻という史実に、次は映画を通して向き合うことができた。
 
たった78年前のこと。知っているようで知らない戦争のこと。百合が体験した戦争や愛、別れは紛れもない日本の、世界の史実なのだ。そのことを知ることに大きな価値がある。そして、そこにはヒーローもヒールもいない、ただ今の私と同年代の等身大の人々が存在していたのだ。

 

本心が綴られた手紙のような歌詞

また、どうぞ映画が終わっても席を立たないでください。主題歌、福山雅治の「想望」でこの映画は完結すると思った。彰の気持ちを確かなものとして受け止めることができるのだ。彰の本心がつづられた手紙のような歌詞に温かくも心をしめつけられるような気持ちに包み込まれエンドロールが流れていったことが忘れられない。

ライター
古庄菜々夏

古庄菜々夏

ふるしょう・ななか
2003年7月25日生まれ。福岡県出身。高校の時に学生だけで撮影した「今日も明日も負け犬。」(西山夏実監督)に主演し「高校生のためのeiga worldcup2021」 最優秀作品賞、最優秀女子演技賞を授賞。All American High school Film Festival 2022(全米国際映画祭2022)に参加。現在は東京の大学に通いながら俳優を目指す。