アニメ「ドラえもん」シリーズは韓国でも人気。最新作の宣伝も力が入っていた

アニメ「ドラえもん」シリーズは韓国でも人気。最新作の宣伝も力が入っていた韓国・プチョンのシネコンで、勝田友巳撮影

2024.7.28

「料理よりお皿が大事?」な韓国映画界 1000万人映画連発、配信作品好調でも先行き不透明?

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勝田友巳

勝田友巳

新型コロナウイルス禍に直撃され、壊滅的打撃が伝えられた韓国映画界。2023~24年、待望の「1000万人映画」も生まれ、動画配信サービスでも人気は続く。明るいニュースも聞こえてきたが、実際には「危機的状況は引き続き深刻」という。「韓国映画界は、料理よりお皿を大事にする食品業界のようなもの」と業界構造のいびつさを指摘する声も聞こえる。いったいどうなっているのだろう……。

「ソウルの春」「破墓」「犯罪都市」大ヒットでも……

19年、韓国映画界は大ヒットの目安となる「1000万人動員」が外国映画を含め5本もあり、活況を呈した。しかし新型コロナウイルス禍に直撃され、20、21年は大きく落ち込み、コロナ禍が明けてからも観客は6割程度しか戻っていない。コロナ禍の間に動画配信サービスが普及したこと、映画料金が3度にわたって値上げされチケット代が1万ウォンの壁を超えたことなどが原因として指摘されてきた。

ただ、23年は「ソウルの春」(1185万人)、「犯罪都市 NO WAY OUT」(1068万人)と2本が大ヒットし、24年もすでに「破墓」(1191万人)と「犯罪都市 PUNISHMENT」(1150万人)が1000万人映画となった。いずれも韓国映画だ。視野を広げれば、韓国発の動画配信サービスのドラマは「イカゲーム」以降も続々とヒット作が生まれている。明るい兆しは見え始めているのでは……。

そうした見方に、韓国脚本家協会のキム・ビョンイン会長は「状況はまったく楽観できない」と話す。韓国映画界が構造的に抱えた問題が、コロナ禍を経てさらに深刻化しているというのである。

家で見るか、映画館に行くか

韓国映画界は興行側の力が非常に強い。3300のスクリーンは財閥系グループ企業の傘下にある大手シネコン3社の寡占状態だ。このうち最大手でCJグループのCGVが5割、ロッテ3割、メガボックスが1割を占める。この興行3社がそれぞれのグループ内にある映画製作部門と垂直系列化している一方で、興行部門を持たない製作・配給会社にとって、全国規模での公開はこれら3社しか選択肢がない。つまり、興行大手3社はグループ内で製作した映画がコケても、他社製作作品の興行利益を吸い上げれば穴埋めができる一方で、興行部門がない製作・配給会社は大手の意向をうかがわざるを得ないという構造なのだ。

グループ全体の収益を考える興行側は、ヒット最優先。短期間で大量の動員を図りたい。いきおい、有名監督とスターをそろえた話題性のある大作を望み、製作側はこれに応えて映画は大型化し、製作費も高騰する。かくして企画がマンネリ化したところにコロナ禍が直撃。映画1本のチケット代と配信1カ月の契約料が同じ程度になって映画館が〝特別な場所〟となり、観客は以前ほど気軽に足を運ばず、慎重に作品を選ぶようになった。

最大手CGVを抱えるCJグループの映画製作部門CJENMの不振も、影響を及ぼしているという。CJENMは19年、「パラサイト 半地下の家族」「エクストリーム・ジョブ」など1000万人映画を連発し絶好調だった。しかしコロナ禍で映画製作体制を縮小させ、23年は勝負作だった「THE MOON」が興行的に失敗。全体の観客動員数が減っている中で損失を取り戻そうと、製作・配給側に一層の負担を強いているという。キム会長は「映画製作に出資する投資家にとっては、ヒット作が少ない上にうまみがなくなるという悪循環」と解説する。

配信に資金流れても 投資家に魅力薄く

となれば、投資家の目が勢いのある動画配信サービスに向くのは自然な流れ。特に、製作費を投じスターを並べた外資系のNetflixなどに資金が集中する。23年には訪米した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領がNetflix代表と会見し、3300億円の投資を約束させた。潤沢な資金が流れ込み、映画がダメでも映像産業全体には明るい将来が期待できそうだ。

しかしキム会長は「それも先行きは危うい」と指摘する。配信作品は映画興行と違って「買い切り」が中心で、ヒットしても出資者に利益をもたらすわけではなく、投資先としては魅力に乏しい。また人材は映画界から流れてきており、新しい才能が生まれていないという。映画界では大作と小品の二極化が進み、新人が腕試しをしながらステップアップする中小規模の作品がなくなり、才能育成が滞っている。韓国では法律によって映画館は収益の3%を負担金として韓国映画振興委員会(KOFIC)に収めるが、配信系はその対象外。キム会長は「現在は好調のようだが、10年後にはどうなるか分からない」と悲観的だ。

業界一丸、是正を要求

こうした現状を打開しようと、韓国映画界が一丸となって働きかけている。映画関連団体は今年7月、興行会社に不公正取引があるとして政府に調査を要求。また、動画配信サービスにKOFICへの負担金を課す法改正も求めている。キム会長が「これだけの団体が集まったのは例がない」というほどの危機感なのだ。

キム会長は韓国映画界を食品業界にたとえてみせた。「客に料理(=映画)を提供するには食器(=映画館)が必要だが、食品業界にとって大事なのは皿より料理のはず。また優秀な料理人や未来の料理人への機会提供なしに、業界は持続可能でしょうか。韓国映画界は、料理人を大事にせず、料理が食器業者をもうけさせるために存在している」というのだ。日本が同じ轍(てつ)を踏まないよう、祈るばかり。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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  • アニメ「ドラえもん」シリーズは韓国でも人気。最新作の宣伝も力が入っていた
  • 「第28回プチョン国際ファンタスティック映画祭」の上映会場はにぎわっていたが……
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