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2024.12.26
<解説>「イカゲーム」続編 徹底したご都合主義の排除が生むデスゲーム作品の新潮流
2021年9月にNetflixで配信されるや、94カ国でランキング1位を獲得する大ヒットとなり、日本でも社会現象化したサバイバルサスペンス「イカゲーム」。その続編となるシーズン2が、12月26日より配信開始された。最終章となるシーズン3が25年配信となることが発表済みの本シリーズ、シーズン2では何が起こるのか? 序盤(第1話から第3話)の内容を中心に、<ネタバレあり>で解説する。
シーズン1の3年後 ゲーム終結図るギフン
舞台は、シーズン1最終話の3年後。優勝者ギフン(イ・ジョンジェ)はデスゲームを終わらせるべく、賞金を使ってゲームの案内人である〝メンコの男〟探しに躍起になっていた。一方、失踪した兄を追ってゲーム会場に潜入していた警官ファン・ジュノ(ウィ・ハジュン)は、わずかな記憶を頼りにゲームの開催地である島を探し出そうとしていた。目的を同じくする両者が邂逅(かいこう)したことから、物語が一気に動き出す。
「イカゲーム」の面白さは、ショッキングピンクやライトグリーンを大胆に使ったカラフルかつ〇△□をあしらったポップな世界観と、日本の漫画や映画におけるデスゲームものを研究して編み出した「債務者が一獲千金を狙い、命がけで子どもの遊びに挑む」設定等にあるだろうが、もう少し細かく見ていくと〝舞台裏の緻密な描写〟にうならされる。日本でも人気のデスゲーム作品を読んだり見ていたりする際に「ゲーム期間中の睡眠はどうするの?」「脱落者の処理は?」「眠らされて起きたら会場だった――という状況をどう作っているの?」といった疑問が浮かんだことはないだろうか。
「イカゲーム シーズン2」© 2024 Netflix, Inc.
細部の詰めを徹底 心理描写に生々しさ
「イカゲーム」はそうした疑問点を、執拗(しつよう)なほどに徹底して潰していく。眠らせた参加者を運営スタッフがマンパワーで運んでいたり、死体処理班がこっそり臓器売買を行って私腹を肥やそうとしたり、ゲームとゲームの間の就寝時間に暴動が起こってなぶり殺されるものが出てきたり……そうした細かい描写がいちいち絶妙で、荒唐無稽(むけい)な設定にもかかわらずリアリティーが担保されていた。極めつきは同ジャンルの禁じ手ともいえるドロップアウト制の導入で、まさかの「中止するかどうかの投票を行った結果、ゲームが1回お開きになる」展開が巻き起こる。しかし、元の暮らしに戻った参加者たちは生活苦から再びゲームの参加を希望する――という流れを踏むことで、心情描写に生々しさを付加しているのだ。
そうしたご都合主義を許さない姿勢が、シーズン2では一層強化されている。ギフンはせっかく優勝したものの、死んでいった脱落者たちが夜な夜な夢に現れ、前シーズンよりもやつれてしまっている。かれらの無念を晴らすためにゲーム自体を終わらせようとするが、唯一の手掛かりは自分がかつて出会ったメンコの男ヤン(コン・ユ)のみ。再会するべく人海戦術で地下鉄の駅に張り込ませるが、2年以上の月日が流れても見つからない。「そう都合よくはいかないし、興ざめでしょう?」という製作陣のメッセージが聞こえてくるようだ。ちなみに、ギフンの協力者は高利貸の面々。債務者たちが突然失踪し、踏み倒されて困っている(実際は借金返済のためにゲームに参加して脱落し死亡した)という彼らの事情がさらりと、かつ納得いく形で描かれるのもうまい。
〝異物〟混入で起きる波紋
その後、粘り勝ちでヤンと再会し、ロシアンルーレットに勝利して糸口をつかむギフン(両者の会話の中でヤンのバックボーンも明かされる。余談だが「『イカゲーム』シーズン2への招待状」と題されたヤンのモーニングルーティン動画がNetflixの公式YouTubeチャンネルで公開されており、そちらも併せて鑑賞いただくと味わいがアップするはずだ)。ようやくゲームを取り仕切るゲームマスター(イ・ビョンホン)にまでたどり着くが、阻止計画はうまく運ばず、ギフンはもう一度ゲームに参加する羽目になる。最初から希望していたわけではなく、次善策を取るという流れも違和感のないものになっており、2話ぶんものボリュームを費やして「ギフンが再戦するまで」をとにかくみっちりと描いていく点に、製作陣のこだわりと真摯(しんし)さを感じさせられる。
さあここで第3話からはいよいよゲームが描かれていくわけだが、ギフンという前回優勝者であり、2周目プレーヤーという〝異物〟が入ることで何が起こるか。視聴者が予想するであろう事態が次々に発生していく。シーズン1鑑賞者にはおなじみである死の「だるまさんがころんだ」では、ギフンが攻略法を伝授するも最初は「頭がおかしい人がいる……」と引かれ、何人か死んだことで皆がやっと耳を傾けるようになる。そこからは一致団結し始め、隊列を組んでクリアをはかるのだが、ゲームの内容は前回と全く一緒なのに受ける印象が全く変わってくるのが新鮮だ。犠牲者を出しながらもなんとか第1ゲームを終了し、ギフンは参加者の皆に呼びかける。「最後の1人になるまで全員が死んだ。だから今すぐ降りましょう」と。これ以上ない説得力に満ちた訴えだったが、逆効果にもなってしまう。彼は「無理ゲー」と言っているのに、他の参加者からしたら「ギフンさんがいれば百人力! これで楽勝!」という心理になってしまうのだ。
運営側のドラマも深掘り
つくづく「こういう状況だったらこう思う人も、こう感じる人もいるはず」というリアルベースのシミュレーションのうまさを感じさせられる展開を経て、第3話は最後の最後に衝撃的なサプライズを起こして幕を閉じる。ここも前シーズンの鑑賞者にはニヤリとさせられる仕掛けが施されているが、勘のいい視聴者ならこうも思うのではないか。「なぜ毎回ゲームの内容が同じだと思うのか? ギフンが参加した回から3年がたっているんだぞ」と――。実際、今回は新ルールとして「一つゲームが終わるごとにここで中止するかどうかの投票を行う」が追加されており、さまざまな面でマイナーチェンジが施されている(支給されるご飯もちょっと豪華にランクアップしており、芸が細かい)。本当に第2ゲームは「型抜き」なのか、その疑問は第4話を見れば解消されるため、ぜひトライしていただきたい。
また、「イカゲーム」シーズン1はギフンが参加者側から、ファンが運営側から探っていく構造になっていたが、今回はなんと「ゲーム運営スタッフがどう集められているか」の一端が明かされ、おのおのの事情もより細かく描かれていく。マルチプレーヤー性が強化されている点においても、よりゲーム的なニュアンスが出ており、ドラマ面の深掘りにも発展。シーズン1の精神性をしっかりと引き継ぎながらも、前期と比較することで独自性が浮き彫りになる「イカゲーム」シーズン2。そうした点ではコアファン向けの内容ともいえるが、今回はどれほどのバズを引き起こせるのか。この采配の行方も気になるところだ。