プチョン(富川)国際ファンタスティック映画祭(以下BIFAN)プログラムディレクター、エレン・キムさん=撮影:宮脇祐介

プチョン(富川)国際ファンタスティック映画祭(以下BIFAN)プログラムディレクター、エレン・キムさん=撮影:宮脇祐介

2023.11.03

韓国の映画祭プログラムディレクター、東京国際映画祭の印象や2024年韓国映画業界の予測を語る「JKムービーの時代」

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宮脇祐介

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今回3度目の東京国際映画祭に参加したプチョン(富川)国際ファンタスティック映画祭(以下BIFAN)プログラムディレクター、エレン・キムさんに第36回東京国際映画祭の印象や来年の韓国映画業界の予測などを語ってもらった。
 

3回目の東京国際映画祭

初参加は2000年、自身がプロデュースしたホン・サンス監督「秘花〜スジョンの愛」が第13回同映画祭審査員特別賞を受賞した時。「Bunkamuraを中心にした映画祭だった。ミニシアターを巡ったりして過ごした」と受賞の余韻もあり楽しさが伝わってくる。
 
2回目は16年に「グエムル 漢江の怪物」などのプロデューサー、チェ・ヨンベさんの同行。「コンパクトでよかったが、通訳の役割もしていたので六本木ヒルズから出ることもなく、会場が街から切り離されたような感じがした」と正反対の印象。
 
今回同映画祭は日比谷地区を中心に有楽町、銀座などで行われている。「日本の映画会社や映画館が集まるメッカで行われているという印象が強い。また、映画を見る合間に街のレストランに行ったり、旧友と落ち合ったり。プレスセンターも充実している。東京宝塚劇場も歴史を感じるし、なんと言っても役所広司を見られたのがとても良かった」と満足そうな笑顔をもらした。
 
日韓の映画祭の違いを聞くと「韓国は観客が熱狂的だが、日本の観客は統制が取れているのが印象的だった」。「今回の映画祭は日本の目は韓国というよりは、中国に向いている気がした。あと、浜松町のマーケットがちょっと寂しかった」と苦笑い交じりに話してくれた。
 

韓国映画業界の今日

ところで韓国の映画事情の話に移すと顔が曇りがちだった。「パンデミックと映画館チケットの値上げ、動画配信の普及で観客の行動様式が変わった。新型コロナウイルス禍前は映画館に行って見る映画を決めていたが、今はこの映画は映画館で見るべきものなのか配信でよいのかよくよく調べて劇場に向かうようになった。動画配信サービスが人々の生活に入り込み、さらに劇場公開から動画配信サービスのリリースのタイミングが作品ごとにバラバラになってきた。公開と同時に配信などの作品や、1〜3カ月後の配信だったり。以前より早く配信されていて映画と配信のタイミングのバランスが崩れた」
 
それでは韓国の観客の映画館離れは来年の韓国映画業界に何を引き起こすのか?
 
韓国は映画発展基金のために映画税として映画館のチケット代に3%がかかっている。その基金を実行する映画振興委員会(KOFIC)によると、23年上半期の映画産業の興行収入は6078億ウォンで、コロナ前の17年から19年までの上半期の平均の73%。しかし、上半期の観客数は5839万人で、コロナ前の58%にとどまっている。値上げで映画館に気軽に行くことがなくなったことが数字からも読み取れる。特に韓国映画の興行収入は不調で2122億ウォンと、コロナ前の54%にしか回復していない。
 

2024年の韓国映画界は新世界

「映画発展基金は主に映画の製作、配給、映画企画開発、海外プロモーション、映画祭、アートシアター支援などに使われる。韓国の映画館の興行収入が減ると、映画発展基金も縮小される。BIFANの支援も50%カットの話が来ている」そうだ。
 
「韓国映画界は新世界に入った。配信の製作に入れない人は仕事にあぶれる。一部の有名監督や俳優は配信を利用して世界進出するが、多くの韓国映画を支えた人材は深刻な仕事不足の年になるだろう」と悲観している。
 
50%支援が減った分はどう対処するのかと聞くと「来年のBIFANは招待作品などを減らし、派手に行っていた分の経費を節減するしかない。それでも、映画祭には国際共同製作のプラットフォームの役割がある。来年のプチョンは日本、台湾、東南アジアのパートナーシップをさらに強めていきたい。映画産業振興の役割がさらに大きくなる」と次の一手を模索している。
 

JKムービーの時代

現在、音楽業界では日本と韓国の資本・人材交流でJKポップというシーンが発芽してきている。NiziU やJO1などがその代表格とも言える。映画ではそんな動きはあまり聞こえてこない。韓流20年で培った製作と世界進出のノウハウが日本の映画産業と結びつき、24年は新たなJKムービーの時代が訪れるのを期待したい。そのためにも国際映画祭の役割はこれからさらに大きくなってくる。

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ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

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