出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。
2023.3.07
冲方丁「骨灰」 ある「儀式」の禁忌を侵してしまう行動で一家が忌まわしい怪異に襲われる!
「ミッドサマー」、「呪詛」、「女神の継承」――。近年、恐るべき儀式・祭礼が登場する海外のホラー映画が話題になりました。非日常的な所作の美しさに魅せられているうちに、逃げ場がなくなる。そして、失敗したときにはおぞましい怪異が襲い来る――そんな儀式が、日本で、それも大都会の地下で行われていたとしたら……。冲方丁さんの最新小説にして初の長編ホラー「骨灰」は、こうした異境の恐怖を圧倒的な筆力で東京に現出させた大作ホラーです。
物語の舞台は2015年の渋谷。大手デベロッパーのIR部で危機管理担当チームに所属する松永光弘は、自社が手掛ける高層ビルの建設現場に関する不穏なツイートの真偽を確かめるため、現場の地下へ調査に向かいます。現場についてのツイートの内容は、「火が出た」「いるだけで病気になる」「人骨が出た穴」というもの。ツイートに添付されていた画像の場所をひとつひとつ見つけながら地下を進む光弘は、なぜか地下の空間が異常に乾燥していて、あたりに嫌な臭い――人が骨まで灰になる臭いが充満していることに気づきます。いったい何が起こっているのか……。さらに、図面に載っていない不審な階段を見つけ、調査のために明かり一つ無い中をヘルメットのヘッドライトだけで進むことに。このパニック寸前になりながら地下の底へ下りていくシークエンスは、映像になればいっそう恐ろしくなりそうです。そして、光弘がたどり着いたのは、巨大な四角い穴が掘られた不気味な祭祠(さいし)場でした。そして、穴の底には鎖でつながれた謎の男が。肝をつぶした光弘は、何とか男を解放し、助けますが、それはある「儀式」の禁忌を侵してしまう行動なのでした。地上に出た後の光弘と、妊娠中の妻・美世子、幼い娘の咲恵の一家を忌まわしい怪異が襲います。ここまでの不穏で恐ろしい展開も、まだまだ序の口。ここから怪異「骨灰」が悪意に満ちた恐怖を光弘と読者に味わわせるのです。
東京の地下、関東ローム層の酸性土には、これまでに死んでいった数えきれないほどの人々の骨が溶け込んでいる。そのため、地中には途方もない数の死者の怨(うら)みが蓄積され、巨大な祟(たた)り「骨灰」と化すことがある――祭祠場を管理している「玉井工務店」の社員にそう告げられた光弘は、「骨灰」を鎮めるため、彼に従って儀式を完遂させようとするのですが……。圧巻のスケールと驚きの展開の連続で、衝撃のクライマックスまで、地の底に吞(の)み込まれるかのように一気読み必至の大作です。大都会の現実と幻想が絡み合うラストシーンは映像化されれば多くの人の記憶に焼き付くに違いありません。
数々の作品が映画、アニメ、ドラマとメディアミックスされてきた冲方さんの新境地、この「骨灰」も間違いなく映像化一押しです!