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2023.12.05
社会的問題は敬遠される日本映画と企画が成立する韓国映画の違いとは?
石井裕也監督「月」を見終わって疑問が浮かんだ。「韓国は近い過去の事件をよく映画にするが、日本はなぜ少ないのだろう」。
その疑問を、韓国との共同製作やリメークを多数手がけた製作会社ロボットの小出真佐樹さんにメールにてぶつけてみた。「映画を見たら連絡をするので、その話をしましょう」と返しがあり、小出さんへの2度目の取材が始まった。
「『月』は事実を基にした小説の映画化というよりは、夫婦の再生物語として上質なものでした」。多くの作品を製作してきた小出さんらしい感想の後、本題に。「そもそも韓国と日本では映画の製作過程が違う」と切り出した。
企画の決定プロセスが圧倒的に違う
「韓国は監督と大手の投資会社が強く結びつき映画製作を行います。投資会社は興行実績のある監督を長く自分たちの手元に置いておきたいので、複数本の契約をし、その中に監督がやりたい社会的なものなどがあればやはり企画が通りやすく、劇場に影響力があるCJ、ロッテ、ショーボックス、NEW、メガボックスなどの大手映画投資・配給会社が監督とともに未解決事件や感動実話の映画化を観客に届けてきたと思います。一方、日本では会社に所属するプロデューサーが企画を立て社内許諾をもらって監督・脚本家とともに作品を開発し、資金調達と宣伝のため製作委員会を組成するので、企画の決定プロセスが圧倒的に違いますよね」と言うのだ。
「月」二人の作家性が成立
「かつてはオリジナル至上主義で過去の新聞報道の1行から映画を作るのが韓国映画といわれたくらいで、監督が自ら脚本執筆を行うことが多いです。しかし、日本は会社で企画を通すために、すでに売れている原作小説・コミックスなどを映画化することが必然的に多くなり、多くの人の目を通って映画が成立するので社会的問題は敬遠されるのが現状かと。『月』は故河村光庸プロデューサーと角川歴彦元KADOKAWA会長というお二人の作家性が成立させたところが大きいのではないでしょうか」と語る。
「ポン・ジュノ監督『殺人の追憶』(2003年)、キム・ヨンファ監督『国家代表!?』(09年)などかつては隆盛を極めた実話映画も、最近は実話秘話だからといってヒットするということでもない風潮です。実話、フィクションかかわらず観客が映画館で見るべき映画か、すぐ配信が始まるOTT(インターネット配信サービス)で良いのかを見極めている。先日公開の始まったキム・ソンス監督『ソウルの春』は1979年の新軍部勢力反乱阻止を描いた現代史映画ですが久しぶりに映画館がにぎわっています」という。
新陳代謝が行われる2024年
「韓国では新型コロナウイルス禍で上映を検討しお蔵入りになっていた映画がほぼ今年中に公開されています。韓国も日本のように小説、ウェブ・トゥーン、リメークなどの映画化も増えてきていた。先出の5社の他、ゲーム会社やベンチャーキャピタルなど新しい投資会社が現れてきて、来年は投資会社のプレーヤーも変わってきそうです。製作費はタイトにならざるを得ないが、新陳代謝が行われるのではないでしょうか。日本もすでに海外との協業が増え世界に目が向いていますよね。そこでおのずと何を描かなければいけないかが見えてくるはず」と来年を予測し締めくくった。
23年の日韓の劇場の観客動員では明暗を分けた結果が出てきそうだ。24年はいかなる年になるのか。また、定期的に小出さんへの取材を続けたいと思う。