2021年に生誕90周年を迎えた高倉健は、昭和・平成にわたり205本の映画に出演しました。毎日新聞社は、3回忌の2016年から約2年全国10か所で追悼特別展「高倉健」を開催しました。その縁からひとシネマでは高倉健を次世代に語り継ぐ企画を随時掲載します。
Ken Takakura for the future generations.
神格化された高倉健より、健さんと慕われたあの姿を次世代に伝えられればと思っています。
2024.11.18
高倉健没後10年「緋牡丹博徒 二代目襲名」をZ世代ライターが見た「強烈なインパクトを残す主役級の『瞳』」
言葉選びに翻弄される自分が滑稽に見える
気持ちを伝えたい時、私たちは言葉を探す。ああでもない、こうでもないと、時には大げさに、時には少しうそをついたりもする。シンガー・ソングライターとして特段歌詞に神経を使う私は、そのエネルギーや可能性を誰よりも信じているつもりだが、どんな言葉を並べてもやはりこの人のまなざししひとつにかなわない。高倉健。今年11月10日に没後10年となる、今もなお多くの人に愛される永遠の名俳優だ。以前「日本俠客伝 花と龍」のコラムでも触れた彼の瞳で語る演技のすごみに、この作品でもまた衝撃を受けることになる。「目は口ほどにものを言う」とはよく言うが、はっきりと言葉にしないことで反対に、こんなにも強く優しさや愛情を表すことができるなんて……。言葉選びに翻弄(ほんろう)される自分が滑稽(こっけい)に思えるほどの表現力に打ちひしがれた。
緋牡丹博徒シリーズの第4弾
時は明治中ごろ。渡世修行の旅を続けたお竜(藤純子)が7年ぶりに故郷の熊本に帰った直後、矢野一家を率いるお竜の叔父・川辺が志半ばで、この世を去ってしまう。川辺から仕事の続行を託されたお竜は一家を束ね鉄道敷設工事を進めようと努めるが、職を失うことを恐れた川船業者や宝満一家の手荒い妨害に邪魔をされる。のちに筑豊鉄道が完成し、お竜の二代目襲名披露が行われると、宝満一家の乱暴で卑劣な襲撃は激化していく。黙過できない状況の中、ついに矢代幸次(高倉健)とともに敵地へ乗り込んでいくお竜だったが……。北九州市若松区出身の火野葦平作「女侠一代」を原作として1969年に公開された、緋牡丹博徒シリーズの第4弾である。
彼女の包容力と気品にしびれる作品
女親方と聞けば男性顔負けの威勢の良さで一家を束ねるイメージがあるが、お竜は最後までしなやかな強さで正義を貫き通した。白い肌とスッとのびた背筋に共存するかれんさと勇ましさ。お竜の美貌に魅せられる多くの男性の気持ちを軽くいなす凜とした姿は、私の憧れの女性像だ。乱暴な敵陣に果敢に立ち向かい、それでいて相手の言い分にもしっかり耳を傾ける。面倒を見ているヤクザの若妻・雪江をはじめとした、困っている人を決して見捨てないお竜は理想の上司像でもあった。何度見返しても彼女の包容力と気品にしびれる作品だ。
高倉健の瞳の演技
あらすじの通り、お竜を主人公として物語が進む緋牡丹博徒シリーズ。利権争いや身内の裏切り、激しい抗争が描かれるなか、高倉健が演じる流れ者の矢代は開始から50分ごろに初めて登場するのだが、その存在感はすさまじいものだった。華があるというのだろうか……「この人ならなんとかしてくれる」という頼もしさを醸し出すたたずまいがたまらない。矢代の姿を初めて見たお竜の瞳もまた、絶妙な目線の移動だけで彼に対するただならぬ関心を表す。クライマックス、敵地での激しい戦いの末に矢代が最期を迎えるシーン。ここで見せる高倉健の瞳の演技に、私は打ちのめされのだ。共に戦い、互いに信頼を寄せる2人は最後まで胸の内を伝え合うことはなかったが、彼らが視線のぶつかりだけで表現したのは、どんな言葉のやり取りも到底かなわない深い慈しみだった。
短い出番でも強烈なインパクトを残す主役級の「瞳」
これまで「好き」「愛してる」と声に出して伝えることが、最上級の愛情表現だと思っていた私。洋画を見ていても、最高潮までためて発する〝I Love you 〟の重みにいつも感激していた。思っていることは言わなければ伝わらないし、歌詞だって言葉を尽くしてなんぼ。というほど感情や内心の言語化至上主義だった私の価値観を大きく揺るがした高倉健のまなざしの破壊力たるや。言語の壁も関係なく突き刺さるあの瞳は、彼が今も世界中で愛される理由のひとつだろう。ぜひあなたも、名俳優・高倉健の衝撃が残り続けるまなざしを体感し、その魅力に抜け出せなくなってほしい。短い出番でも強烈なインパクトを残す主役級の「瞳」に注目の1本だ。
▼東映㈱ 旧作上映「没後10年 高倉 健 特集 銀幕での再会」@丸の内TOEI
https://toeitheaters.com/theaters/marunouchi/news/59/
▼東映ビデオ㈱ 初ソフト化3作品
https://www.toei-video.co.jp/special/takakuraken10th/