「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」について話す埼玉県の大野元裕知事=宮間俊樹撮影

「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」について話す埼玉県の大野元裕知事=宮間俊樹撮影

2023.12.14

埼玉県知事に聞いてみた「なぜディスられて大喜び?」 「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

ひとしねま

平本絢子

「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」が、公開以来快調に飛ばしている。特に埼玉県民の客足が良いという。記者になって最初の赴任地、さいたま支局で4年間を過ごした私も、前作とともに「あるある」と共感しながら楽しんだ。それにしても、都道府県の魅力度ランキングで下位の常連、埼玉県民はなぜディスられて大喜びするのか。そして、全国の地方都市が魅力を再発見し、アピールするには何が大切なのか。大野元裕埼玉県知事や識者と、真面目に考えた。


ローカルネタに大笑い

映画の舞台は、架空の世界における日本。前作では東京都民から迫害を受ける埼玉県民が解放を求めて戦いを挑んだ。今作では関西に舞台を移し、大阪府などに虐げられてきた滋賀、和歌山、奈良の各県が埼玉県と共闘する。
 
両作ともに、各県のご当地ネタを盛り込んだ痛烈なディスりが特徴だ。前作公開時には「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」といったフレーズが話題を呼んだ。続編では「滋賀県人はそこらへんの害虫でも食べといたら、よろし!」と継承(?)されている。埼玉で4年間暮らし、準埼玉県人を自任する私もマニアックな埼玉ネタを笑いつつ、「こんなローカルな話題が伝わるのか……」と不安になってしまった。


「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~」2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会

実は「印象希薄」だったけど

といっても、私は幼少期のほとんどを東京で過ごした。都内でも埼玉から遠い場所に住んでいたのもあるが、埼玉は学校の遠足で川越に行くくらいしか足を運ぶ機会はなく「特段の印象がなかった」というのが正直なところだ。
 
しかし就職して実際に住んでみると、だんだんと愛着を感じるようになった。都会的な利便性はあるが、通勤時間帯の電車を除けば都内ほど混雑もせず、物価も高くない。少し車を走らせれば、自然に触れられる。県北部は北関東の文化も感じられ、程良い田舎っぽさが残っている。それは地域性だけでなく県民性にも反映され、東京にはない人の温かさを感じられた。一方で県外からの移住者が多いためか、外の人に非常に寛容な一面もある。まさに都会と田舎のハイブリッドだった。
 
多くの県民が「埼玉には何もない」と言いつつ、何となく愛着を持つ。一方で、こちらに郷土愛を押しつけることもない。親が転勤族でどの土地にも地元意識がない私にとって、これほど居心地の良い場所はなかったのかもしれない。


1作目の観客、3割が埼玉県民

配給元の東映によると、前作の観客動員数291万人のうち、埼玉県はおよそ3割の86万人。今作も公開から14日間で92万人のうち埼玉県が19万人を占め、「翔んで埼玉」シリーズの地元での人気がうかがえる。あれだけディスられて、埼玉県民は平気なのか?

その疑問を、県の行政トップ、大野知事にぶつけてみた。「次は何を食べさせられるのかと心配していた」と話す大野知事だが、埼玉ネタがさく裂する続編を怒るどころか「思わずニヤっとしてしまうところが多い」とおおらかに受け止める。「どちらも埼玉をディスるのが目立っているが、実は埼玉愛がものすごく強い作品だと思う」と太鼓判を押した。

自身も川口市で生まれ育った生粋の埼玉県人。「ダ埼玉」などとディスられ続けてきたことにも「本当に深刻なことだったら、本人に投げかけることはできないはず。友達同士で、ちょっとふざけて言うような感覚に近いのでは。埼玉は自然と都会が融合していて、海以外全てある。私自身は『ダ埼玉』は過去のものだと思っています」と平然としている。


自虐的体質も寛容さの裏返し

埼玉をやゆする言葉は首都圏ではよく聞かれるが、それ自体がアイデンティティーになっているという見方も。松本正生・埼玉大名誉教授(政治意識論)は「『ダ埼玉』という言葉は、自分たちで言っているところがあると思う。映画はそういう自意識過剰な部分をうまくくすぐっている」と指摘。「県民みんなで見て盛り上がれる作品で、他県から見ればうらやましいと感じるかも。結果的に映画が、他の地域にとっても埼玉を印象づけるものになっているのでは」

大野知事はディスられて面白がる背景に、寛容な県民性があると見ている。「埼玉県民はあまり前に出てPRしないし、地元愛がないとよく言われる。それでもこぞって映画を見たのは、埼玉愛に共感したから。(県民の)懐の深さに支えられて、笑いが提供できているのでは」と余裕の分析。そして、今作で共闘する滋賀、和歌山、奈良に対して「『ディスられる側にようこそ』と申し上げたい」と勢力拡大を歓迎するのである。

1作目の思わぬ成功で続編製作が決定されたが、武内英樹監督は関西圏にディスりを拡大した理由を、10月の記者会見でこう語っている。「1作目は関東で大ヒットしたけど、関西の人にとっては埼玉がよく分からないのか、あまりヒットしなかった。『関西の方でもディスってほしい』という声が多々あった」。リクエストに応えた今作は、関西2府4県での興行収入が前作の239%(8日現在)と急拡大。まさに狙い通りの反響と言えるだろう。


ランキング下位でも勝算あり

ブランド総合研究所が毎年、発表する「都道府県魅力度ランキング」では、北海道が23年まで15年連続で1位を記録。人気の観光地が集まる京都府や沖縄県なども例年上位に挙がる。23年の調査で埼玉県は45位(滋賀県は36位)。同ランキングを巡っては、22年に2年連続44位となった群馬県の山本一太知事が「統計学的に非常に信頼性に乏しい」と反発するなど物議を醸してきた(続く23年も44位で、3年連続達成!)。

都道府県の魅力に順位をつけることの妥当性はともかく、圧倒的な観光資源の優位性を持たない地方が、自分たちの土地の魅力を自覚し、外部に発信するにはどうしたらいいのか。地方再生に詳しい日本総合研究所の藤波匠・上席主任研究員は「地方の人は、地元に本来ある資源を見落としている場合が多い」と指摘する。例として、「農業地域ならではの伝統文化や地域の歴史、生態系」などを挙げる。


埋もれた魅力掘り起こして活性化を

藤波研究員は「その土地で生まれ育った人にとっては日常的な風景も、地域性を表すものであり、アイデンティティーを示すものになる。外の人の力を借りながら地域資源を活用する時代になってきているのでは」と話す。「埋もれていたものをうまく掘り起こすことで、地域の活性化につなげたり、自分たちのアイデンティティーや誇りを取り戻したりすることに結びつけられるのでは」と提言した。

このまま映画が大ヒットして、埼玉に続いて滋賀にもスポットが当たれば、〝ディスり効果〟は本物。第3弾も夢ではなさそう。郷土愛と魅力確認、そして地元アピールにつながるなら、新たな地方創生として注目されるかもしれない。

関連記事

ライター
ひとしねま

平本絢子

ひらもと・あやこ 毎日新聞記者。1996年山形市生まれ。小学校入学までを京都市、福岡市、その後の学生時代は東京都で過ごした。2019年に入社し、初任地のさいたま支局では4年間、警察を担当。23年から東京本社学芸部で放送分野を取材している。

新着記事