©2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会

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2023.11.16

「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」「そこらへんの害虫でも、食べといたらよろしっ!」食い倒れの関西で〝虫グルメ〟は地域活性化の起爆剤になれるのか?

3度の飯より映画が好きという人も、飯がうまければさらに映画が好きになる。 撮影現場、スクリーンの中、映画館のコンフェクショナリーなどなど、映画と食のベストマリッジを追求したコラムです。

石松佑梨

石松佑梨

いよいよ来週11月23日に、待望の「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」が全国の映画館で公開されます。漫画「パタリロ!」で知られる魔夜峰央さんの人気漫画を実写映画化した「翔んで埼玉」。1982年当時、作者が住んでいた埼玉県を自虐的に描いたギャグ漫画が原作です。
 
物語は、埼玉県民が東京都民からひどい迫害を受けていたという世界観のもとで展開されます。アメリカからの帰国生徒で容姿端麗な麻実麗(あさみ・れい:GACKT)と、東京都知事の息子で美少年の壇ノ浦百美(だんのうら・ももみ:二階堂ふみ)が逃避行の末、埼玉県解放のために戦うという物語です。とても深刻なストーリーに聞こえますが、前述の通り、ギャグ漫画。各都道府県のディスりが、ユーモラスに描かれています。今回は舞台が関西へと移されるそうです。


 

地域に人を呼びこむか!? 昆虫食の可能性

前作で話題になった「埼玉県民には、そこらへんの草でも食わせておけ!」という痛烈なセリフ。映画公開後、埼玉県では〝草グルメ〟なるものまで登場して、地域を沸かせました。「琵琶湖より愛をこめて」では、京都老舗料亭の女将(山村紅葉)さんがやってくれています。「滋賀県人は、そこらへんの害虫でも食べといたらよろしっ!」と、まさかの〝虫〟登場です。

前作同様に〝虫グルメ〟が、街おこしの起爆剤となるのでしょうか? 近年の昆虫食で、最もポピュラーなのがコオロギです。香ばしさが、小さな「エビ」に似ていると言われていますが、うまみは少なく、味自体は豆の方が近いとも言われています。

もしも、関西名物で〝虫グルメ〟を考えるとすれば、大阪の〝たこせん(えびせんに、たこ焼きをはさんだおやつ)〟のえびせんをコオロギせんべいに変えてみたり、京都の〝生八ツ橋〟にまぶされているきなこを、コオロギ粉末で置き換えてみたりするのでしょうか・・・・・・はたまた、食い倒れの関西ならではの、とびきりおいしいグルメが、登場するかもしれません。

実際に、東京の有名店がプロデュースした「コオロギラーメン」は、香味油にまでコオロギを使った逸品。1杯のラーメンに使うコオロギは、約110匹とインパクト大。たくさんのメディアでも取り上げられ、芸能人たちの「エビみたいに香ばしくて、おいしい!」という食レポに、多くの視聴者が「食べてみたい」という気持ちにさせられました。

そんな昆虫食を手軽に試すことができる商品が、無印良品の「コオロギせんべい」や「コオロギチョコ」です。さらに、健康業界にも昆虫食は登場しています。これまでプロテインの材料は、牛乳由来のホエイやカゼイン、植物性では大豆をはじめとする豆類が主流でした。ここに登場したのが、コオロギプロテイン。他の畜肉よりも、タンパク質含有量が高いという、コオロギの特徴を生かした商品です。

いずれもサステナブルな食や、ダイバーシティーなインフラ構築への可能性が詰まっています。
 

サステナブルな食を支える、昆虫食の可能性

昆虫を食べることは、世界中の多くの地域で昔から行われてきた伝統的な食習慣です。日本でも古くからイナゴを食べる文化があります。イナゴは田畑の害虫として被害をもたらすこともあるため、農作物を守るためにも、駆除されて食べられることが一つの解決策となったのです。また、昔の農村地域の人々は、イナゴが栄養豊富な食材であることを知っており、その効用を生かして食べられてきたとも言われています。まさに「そこらへんの害虫でも、食べといたらよろしっ!」ですね。

そんな昆虫食は栄養価が高く、生産時の環境負荷が低いことから、人口増加による食糧危機を解決する一つの選択肢として検討されているのです。

昆虫はタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素を含んでおり、バランスのとれた栄養源となり得ます。昆虫の種類によって栄養価が異なるものの、一部は肉や魚よりも極めて高いタンパク質含有量を持っているほどです。タンパク質は筋肉のみならず、内臓や血液、肌、髪、骨、酵素、ホルモン・・・・・・と、人間をつくる全てのものの材料となります。

さらに、昆虫は飼育に必要なスペースや、エサ、水の量が少なく、温室効果ガスの排出も比較的少ないことから、畜肉よりも環境への影響が低いとされており、持続可能な食品として注目を集めています。昆虫の食品としての安全性は、課題がまだまだ残るものの、サステナブルな食を支える可能性は大いに期待できるものでしょう。

ダイバーシティーを考える、昆虫食の可能性

ひと昔前のテレビ番組では、海外ロケなどに行った出演者が「虫を食べる」というシーンがよくありました。これは、罰ゲームや過酷な挑戦として、出演者の反応や行動を視聴者に見せることで笑いや驚きを生み出すことが狙いでした。ところが、異文化を尊重するダイバーシティーが重視されてきた近年では、同じシーンでも少し認識が変わってきています。

世界各地の料理は、文化や風土に基づく、独自の特徴を持っており、それこそ多様性を表現するものです。さらに宗教や信念、健康状態などが複雑に絡み合うことで、食の選択には個人のバックグラウンドや価値観が大きく反映されます。さらに食事は、人と人とを結びつける重要な場。異なる背景や価値観を持つ人々が食卓をともにすることで、コミュニケーションや共感が生まれます。
 
一部の文化において、古くから行われてきた昆虫食。それを食べることだけが、異文化を認めることとは思いません。しかし、昆虫食のおいしさや安全性が進化することによって、より多くの人が興味を持ったり、触れていくことは、ダイバーシティーを考えるきっかけになり得ると感じています。
 

映画飯の可能性は無限大。

今回も「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」は全国でさまざまなムーブメントを引き起こすのか? 個人的には映画公開後のまちおこしにも大注目していきたいと思います。

ライター
石松佑梨

石松佑梨

いしまつゆり トトノイニスト (管理栄養士・国際中医薬膳管理師)。サッカー日本代表選手をはじめ、世界で活躍するトップアスリートたちの専属管理栄養士として従事。のべ2万人以上に提供してきた「頑張らない食トレ」を武器に、近年は企業の健康経営や地域創生も展開する。幼い頃から、おいしいへの執着心が人一倍強く、おいしく健康に食べるための「ずるい栄養学」で、誰もがおいしく食べて健康になれる社会を目指している。著書に「過去最高のコンディションが続く 最強のパーソナルカレー」(かんき出版)がある。2023年4月よりイラストも担当。