第76回毎日映画コンクール音楽賞「すばらしき世界」 林正樹

第76回毎日映画コンクール音楽賞「すばらしき世界」 林正樹

2022.2.28

音楽賞 林正樹「すばらしき世界」 初めての映画挑戦で栄冠

日本映画大賞に「ドライブ・マイ・カー」

男優主演賞 佐藤健「護られなかった者たちへ」
女優主演賞 尾野真千子「茜色に焼かれる」


第76回毎日映画コンクールの受賞作・受賞者が決まりました。2021年を代表する顔ぶれが並んでいます。受賞者インタビューを順次掲載。
1946年、日本映画復興を期して始まった映画賞。作品、俳優、スタッフ、ドキュメンタリー、アニメーションの各部門で、すぐれた作品と映画人を顕彰しています。

ひとしねま

ひとシネマ編集部

画面の役所広司と即興演奏で共演

 
ピアニストで作曲家の林正樹にとって、「すばらしき世界」は初めて手がけた長編映画の音楽だった。その作品で、毎日映画コンクール音楽賞を受賞。「映画音楽では新人に等しくて、素直にうれしいです」
 

出過ぎずBGMになり過ぎず

西川美和監督は当初、さまざまなタイプの音楽を構想し、複数の音楽家に依頼しようと考えていた。しかし音楽プロデューサーに引き合わされた最初の打ち合わせで、林は西川監督から一任された。「シンプルで小編成のイメージでと言われて、普段の演奏に近く、自分の音楽性を出せるような楽曲でいけたらと最初から思いました。何かに音楽を付けるのは好きでしたし、いずれ映画をやれるという自信もあった。やりたい人がいっぱいいる中で運良く自分のところにきて、せいいっぱいやりたいなと」
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会 

監督とキャッチボールをしながら音を決め、スタンダードジャズを思わせるボーカル曲や行進曲調、黒澤明映画へのオマージュなど、さまざまな注文に応じて曲を作った。「根本的には監督に喜んでもらいたい。監督はOKかそうじゃないかのジャッジがはっきりしている。この音楽だと芝居がこう見える、なんでそう見えるのかも言葉で説明してくれて、大変とは感じなかった」。アーティストとしての主張をしつつ、軽やかでシリアスで、時におかしく悲しい物語の雰囲気を作った。
 
「出過ぎてもいけないし、主張のないBGMになり過ぎてもつまらない。音楽だけで語るのではなく、映像と合わさって完成する音楽を目指して、空間を埋め尽くさないことを意識しながら作曲しました」
 

全部使われなくても映像見て納得

即興演奏の音楽も使われている。「要所で即興演奏を生かしました。きちんと構築するのも好きですが、即興でしか出せないニュアンスもあると思う。演奏しながら、音楽が動きやセリフと合わさっている感覚が心地いい。画面の役所広司さんと一緒にやってるような感覚で」
 
せっかく作った曲が全部使われなかった部分もあった。主人公三上が勇んで自動車教習所に通う場面。シーンの全部で音楽を付けることになって気合を入れて吹奏楽のアレンジをしたが、最終的にはごく一部だけ。「いちばん細かくアレンジして、楽器も多かったんですけどね、使われないと決まった時は、ちょっとショックだった。でも作品を何度も見て、あれでよかったと今は思います。サントラのCDには全部入れてます」
 

初めての映画音楽に、すっかり魅了された。「音楽だけのコンサートとは全然違います。自分の音楽で映画の世界が広がっていることに、充実感、達成感が大きかった。プレッシャーもなかったわけじゃないですけど、完成した時の幸福感は、音楽だけだと味わえない。自分の音楽だけじゃ行けない世界に連れて行ってくれる。ぜひまたやりたい」
 

すばらしき世界

元ヤクザで殺人罪で服役していた三上正夫(役所広司)が出所する。「6犯10入」、人生の大半を刑務所で過ごした三上は今度こそ更生を誓う。生き別れの母親を探したいと、三上は自分の経歴を描きためた「身分帳」をテレビ局に送り、目を留めたプロデューサーが作家志望の青年、津乃田(仲野太賀)に取材を依頼する。三上は世間の冷たい風当たりに苦労しながら、身元引受人の弁護士やスーパー店長、社会福祉事務所の職員らに支えられてまっとうに生きようと格闘する。佐木隆三のノンフィクション「身分帳」を元に映画化。

©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

ライター
ひとしねま

ひとシネマ編集部

ひとシネマ編集部

カメラマン
藤田明弓

藤田明弓

ふじた・あゆみ 1987年生まれ、フリーカメラマン。オリンパスペン・ハーフを使い、ライブやサブカルチャーを撮影。人物撮影を主に雑誌やテレビのスチールカメラマンとして活動中。

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