スポニチグランプリ新人賞 番家一路=宮間俊樹撮影

スポニチグランプリ新人賞 番家一路=宮間俊樹撮影

2023.2.10

スポニチグランプリ新人賞 番家一路 「一番下手」だったのに大抜てき「監督に感謝」:第77回毎日映画コンクール

毎日映画コンクールは、1年間の優れた映画、活躍した映画人を広く顕彰する映画賞。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けている。第77回の受賞作・者が決まった。

木村光則

木村光則

スポニチグランプリ・新人賞の番家一路は弱冠12歳、まだ小学6年生。1980年代の長崎を舞台に、小学生の男の子の友情と別れを描いた映画「サバカン SABAKAN」で、主人公の久田を演じた。金沢知樹監督から、オーディションで「演技が一番下手だった」と言われたという彼が、なぜ見る人の心を揺さぶる演技ができたのか。
 


 

感情掘り起こし「悲しさ」表現

番家が演じたのは、夫婦げんかばかりしているけれど愛情深い父(竹原ピストル)と母(尾野真千子)に育てられ、クラスでも人気者の久田孝明。久田は、家庭が貧しくクラスメートから避けられている竹本健次(原田琥之佑)と親しくなり、2人で自宅から離れたブーメラン島へ旅をするなどして、友情を深めていく。
 
2人が近づくきっかけとなる場面。竹本のみすぼらしい家をクラスメートたちがあざ笑う中で、久田だけは竹本を心配するように悲しげな表情をみせる。竹本は、久田だけが笑っていなかったことを覚えていて、久田に近づいていく。物語の節目となる重要なシーンだ。
 
撮影当時、番家はまだ小学5年。「『悲しい』という気持ちがよく分かってなかったから、自分が悲しかったことをいろいろ思い浮かべて『ああ、こんな感じかな』と思いながらやりました」と話す。自分の中から感情を掘り起こし、キーとなる場面を見事に演じた。
 

「SABAKAN サバカン」©2022 SABAKAN Film Partners

共演・原田との友情が演技に反映

竹本はぶっきらぼうだが、家では、シングルマザーとして奮闘する母(貫地谷しほり)を支え、長男として弟や妹の面倒を見ている。苦労をしている分、大人びている竹本は、久田をどんどん引っ張っていく。心優しい久田はちょっと戸惑いながらも、竹本の家庭の事情などを自然に受け止めていく。2人の男の子の心の交わりが繊細に映し出される。
 
「琥之佑とは(撮影中に滞在した)宿でも部屋が同じで、撮影の時もずっと一緒にいたから最後は友達みたいになって、一緒に遊びに行ったりした」。つまり、久田と竹本の心の結びつきは、現実世界での、番家と原田の心の結びつきと並行していた。それが、自然な友情の発露をスクリーン上に生み出した秘訣(ひけつ)と言えるだろう。
 
番家は最初、竹本役でオーディションを受けた。「監督から、(演技が)一番下手だった、と言われた」と笑う。しかし、金沢監督は「面白いやつだなぁの印象で。この子と一緒にやりたいな」と思い、主役に抜てきしたという。番家はそれを知り、「うれしかった」とほほ笑んだ。
 

感受性生かしつつ「いつものままで」

金沢監督からは「いつものまんまでやるように」と指導を受けたという。そのため「自分で役を作ったりはしなかった」と話す。だから、スクリーンに現れる久田は番家そのものだったとも言える。けれど、フィクションである以上、演技はしなくてはならない。そこで生きたのが、番家の豊かな感受性だった。
 
久田と竹本が別れる駅でのシーン。列車に乗って去って行く竹本を久田は見送る。ホームでは泣かない久田だが、駅を出て迎えに来た父を見つけると、涙があふれ出す。友達の前では泣くのを我慢したのに、父親を見た途端、涙を抑えられなくなる姿は、同じ男としてよく分かる。あまりに自然な演技で見ている側もうるっとしてしまう。
 
「あのシーンは監督のおかげなんです。なかなか泣けなかったんだけど、監督が駅で『今までありがとう』とかぶつぶつ言い始めて、『ああ、もう(撮影も)終わりなのか』と思ったら急に泣けてきて」と振り返った。
 
それを聞いて、オーディション時に「演技が一番下手だった」番家を金沢監督がなぜ主役に選んだのかが分かる気がした。金沢監督は番家の感受性にかけたのではないか。演技が少々うまい子役よりも、感受性の豊かな番家に久田という一人の小学生になりきってもらうことで、見る人の心をゆさぶる作品が生まれるのではないかと。
 
久田は「僕を選んで導いてくれた金沢監督はすごい。新しい道を作ってくれた人です」と感謝を口にした。


弟の番家天嵩(左)とポーズする一路=宮間俊樹撮影

将来は「教師か俳優か。そして金持ちに……」

作中で弟役を演じたのは実の弟の天嵩(てんた)。NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」に出演して注目を集めた。「弟がオーディションを受けて合格するとお菓子をもらったりして楽しそうにしているのがずるいと思って、自分も始めました」という俳優業。
 
4月からは中学生。目の前には可能性にあふれた未来が広がっている。これからも俳優を目指すのか聞いてみると、「小学校の先生になるか、俳優になるか、2択で悩んでます」と明かしてくれた。何でも両親に「学校の先生をやりながら、バイトで俳優をやりたい」と言ったら、父親に「そんなの無理だろう」と返されたという。
 
「お金(収入)のことも考えなくちゃいけないから」と話すのはいかにも現代っ子らしいが、続けて「将来の夢に金持ちも入ってるので」と正直に吐露して取材現場は笑いに包まれた。記者が「有名な俳優さんになればお金持ちになれるかもしれないよ」と言うと、「けどー、有名になるのは難しいから……」とあまりにも現実的な答え。番家一路、やっぱり、君は面白い。

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ライター
木村光則

木村光則

きむら・みつのり 毎日新聞学芸部副部長。神奈川県出身。2001年、毎日新聞社入社。横浜支局、北海道報道部を経て、学芸部へ。演劇、書評、映画を担当。

カメラマン
ひとしねま

宮間俊樹

毎日新聞写真部カメラマン

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