毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.3.15
特選掘り出し!:「12日の殺人」 暗く横たわる〝女性であること〟の困難さ
フランスの地方都市。帰宅途中だった女子大生、クララが何者かに火をつけられ、焼死体で発見される。地元警察の班長になったばかりのヨアン(バスティアン・ブイヨン)率いるチームが捜査を始めるが、犯人逮捕に至らないまま時間だけが過ぎていく。
監督は群像ミステリー「悪なき殺人」で知られるドミニク・モル。本作でフランスのアカデミー賞と言われるセザール賞で、最優秀作品賞をはじめ6冠を受賞した。ヨアンが公道ではなくトラックを周回しながら自転車を走らせるシーンが象徴するように、見る者を渦の中にのみ込んでいくようなサスペンスだ。未解決事件を題材に、捜査官のドラマを描き出す「ゾディアック」を想起する人も多いかもしれない。
ほれっぽくて、奔放だったというクララと関係を持っていた疑わしい人物は次々現れる。しかし糸口を見つけることができても、事件はなかなか解決しない。淡々とした展開の中で、捜査に協力するクララの親友や、チームに参加した女性刑事の言葉と視点が、この映画の背骨になっていることは間違いないだろう。男性社会の中で、ただ〝女性であること〟の困難さが暗く横たわっている。2時間1分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)