「熱のあとに」 ©2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha

「熱のあとに」 ©2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha

2024.2.02

「熱のあとに」 一筋縄ではいかない愛の物語

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

沙苗(橋本愛)は全てをささげて愛したホスト、隼人を刺し殺そうとして逮捕された。事件から6年、服役後に出所した沙苗と見合いをした健太(仲野太賀)は彼女の過去を受け入れ、2人は結婚。穏やかな生活が始まったかに見えたが、謎めいた隣人の女・足立(木竜麻生)が現れる。足立の秘密が明らかになる中、沙苗は隼人への燃え上がる思いを抑えきれずにいた。

愛の定義は人それぞれ。とはいえ、沙苗が「愛」と呼ぶ感情があまりに強烈で、愛について哲学的に語る彼女のせりふを聞いていると、狂気に触れたような恐ろしさすら感じる。だが、自分の愛が誰にも届かず、理解されないことにもがき苦しむ彼女の心情を「分かってあげたい」という気持ちになったのは、沙苗の切実さが橋本の演技の端々に現れていたからだろう。

2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされた作品。監督は今作で商業デビューを果たした山本英。脚本を手がけたイ・ナウォンと共に企画を立ち上げ、一筋縄ではいかない愛の物語を創り上げた。2時間7分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほかで順次公開。(倉)

異論あり

多くの観客の共感を得られそうもない主人公を映画の中心にすえ、異形の愛を描こうとした心意気やよし。ところが話の展開や登場人物の言動が唐突で、恋愛哲学を語る長セリフにげんなり。暗闇でのクライマックスに水を差すかのように割り込む〝子供の声〟が最もスリリングという不思議な映画だ。(諭)