「雨の中の慾情」

「雨の中の慾情」©︎2024 「雨の中の慾情」製作委員会

2024.11.29

「雨の中の慾情」 現実と夢が交錯する複雑で魅惑的な世界

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

売れない漫画家の義男(成田凌)はアパートの大家(竹中直人)から小説家を自称する伊守(森田剛)とともに引っ越しの手伝いを頼まれ、そこで福子(中村映里子)と出会う。義男は離婚したばかりの福子にひかれるが、彼女には恋人がいるようだ。やがて義男、伊守、福子の共同生活が始まる。

監督は「岬の兄妹」「さがす」「ガンニバル」などを手がけた片山慎三。「ドライブ・マイ・カー」の大江崇允が脚本に参加して、つげ義春の同名の短編漫画を映画化した。監督は原作を出発点にしながら台湾ロケを行い、これまでとは違う作風で複雑で魅惑的な世界へと観客を引きずり込んでみせる。現実と夢が交錯して、生々しい戦争のシーンもあれば、繰り返される性描写もあり、ホラーのごときシーンもある。どこに転がっていくのかまったくわからない展開に翻弄(ほんろう)されるが、真ん中に存在するのは義男から福子への変わることのない愛だろう。肉体を通して悲しみや滑稽(こっけい)さがないまぜになった人間のいとおしさを表現した成田の芝居にもひきつけられた。2時間12分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(細)

ここに注目

リアリズムとファンタジーが混然となった展開は、つげマンガを土台に片山監督が独自の世界を構築した趣。昭和の貧乏漫画家の物語と思いきや、予想外の場所に連れ回され、なんじゃこりゃと戸惑ううちに入り口と全く違う場所に出る。迷路のようだが終わってみると筋は通っている、不思議な一作。(勝)

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