毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.9.20
特選掘り出し!:「あの人が消えた」 爽快な〝やられた感〟
ドラマ「ブラッシュアップライフ」で評価された水野格監督の、緻密なオリジナル脚本と巧みな作劇に目を見張った。コメディーとサスペンスを違和感なく融合させた痛快娯楽作だ。
配達員の丸子(高橋文哉)は「次々と人が消える」というウワサのマンションの担当になり、住人の一人で愛読するウェブ小説作家の小宮(北香那)に憧れを抱く。一方で、挙動不審の住人・島崎(染谷将太)のストーカー疑惑を知り、丸子は作家志望の職場の先輩・荒川(田中圭)に相談する。
コロナ禍で再認識された宅配サービスや隣人の存在感に加え、ごみの分別や推し活など現代性と日常を前面に据えた設定で興味の間口を広げ、生真面目で前向きな若者が謎にのめり込んでいく過程をすんなりと作りあげた。ミステリアスな要素を主軸にしつつ、緩いユーモアもふんだん。ワンテンポずれるセリフの間で、手に汗握る寸前に緊迫感を遮断する演出が、全体のトーンに合致した。染谷や北、隣人役の坂井真紀ら演技巧者が楽しんで演じているのも納得だ。ビタースイートなラストまで予期できぬ展開の連続だが、無駄な描写も少なく爽快な〝やられた感〟を堪能した。1時間44分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴)