「美と殺戮のすべて」 © 2022 PARTICIPANT FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2024.3.29

時代の目:「美と殺戮のすべて」 勇気伝えるドキュメンタリー

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1970年代から身近にいたドラッグクイーンやゲイの友人たちにカメラを向け、時代の空気を生々しく切り取ってきた写真家、ナン・ゴールディン。「性的依存のバラード」などの作品で知られる彼女は、手術の際の投与によってオピオイド鎮痛薬の中毒となった経験を持つ。サバイバーであるゴールディンは、事態改善を訴えるための団体、「P.A.I.N.」を設立。利益を得た製薬会社と、オーナーのサックラー一家から多額の寄付を受けた美術館への抗議活動を行っている。

オピオイド危機はネットフリックスの映画「ペイン・ハスラーズ」などでも描かれている、アメリカの社会問題の一つだ。ゴールディンは薬の容器を放り投げ、時にはダイインを行って、命を奪われた人たちの声を伝えていく。彼女が撮影した作品と、団体の活動を追いかけた映像、そして、自ら死を選んだ彼女の姉やエイズで亡くなった仲間たちへの思い。権力への怒り、社会を変えようとする勇気を伝えるドキュメンタリーだ。ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。監督は「シチズンフォー スノーデンの暴露」のローラ・ポイトラス。2時間1分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)