ひとしねま

2023.10.13

チャートの裏側:俳優で輝く恋愛映画

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

恋愛映画として、異例のヒットである。ビートたけし原作の「アナログ」だ。最初の4日間で、興行収入が3億4000万円。12億円以上は見えた。恋愛映画は今、10億円超えが簡単ではない。訴求層の若い観客に響く作品が減っているからだ。そうした昨今、健闘の出足と思う。

「アナログ」は、主演を務めた二宮和也が素晴らしい。人を思う気持ちの表現力において抜きんでている。それは、演技がうまいといった、ありきたりな言葉では表せない。役柄になりきるというのとも違う。人を思う気持ちの強さ、深さが、画面を張り裂けそうにする。

その思いは、2人の女性に対して向けられる。母(高橋惠子)と、みゆき(波瑠)だ。その際、二宮は異なった姿を見せる。前者は控えめながら、思いは彼の表情含めた全身からあふれ出る。後者は、表情の揺らぎが静かな面持ちの中、くっきりと描かれる。こぼれ落ちる涙が、思いの強さに重なり合う。

本作は、恋愛映画にとって非常に重要な俳優の輝きを見せてくれた。これが作品の根幹をなすから、恋愛映画としての説得力が一段と増したのだろう。幅広い層の女性が目立ち、年配者も見受けられた。男女のすれ違いを描く往年の名作「君の名は」を思い出す人もいた。恋愛映画の王道を突き進んだからだろう。ここに映画の幸福がある。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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