毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.10.11
チャートの裏側:米国限定ではない「問題作」
宣伝のフレーズに「2024年最大の問題作」とあった。「シビル・ウォー アメリカ最後の日」だ。米国の近未来の内戦を描いているからであろう。このフレーズは正解だった。チャート1位、スタート3日間の興行収入は約2億円。最終8億~9億円の手応えがある。健闘である。
観客の年齢は高い。米国の政治状況から、「内戦」にピンとくる人たちだろう。もちろん「問題作」と銘打ったからといって、簡単に数字は伸びない。題材がギリギリ、その層に届いたということだ。女性層、若い人は少ない。エンタメ色をさらに強くしたらどうだったか。客層に大きな変化はなかったと思う。
「問題作」の意味は、かなり深かった。内戦はあくまで背景に過ぎない。これは、世界で相次ぐ戦争そのものを描いた作品だ。さまざまな形をとる戦争の現場である。カメラマンらを主体にした視点からは、広い大陸では地域によって、戦場のありようが違うことがうかがえる。
戦禍の惨状が生々しい地域もあれば、日常が変わりなく続く地域もある。危機と安心が表裏なのであるが、その実、命の炎は確実に先細っていく。1年が過ぎたガザの惨状を思う。ここでは、危機と安心の表裏はない。命が、ひたすら脅かされていく日々である。死は間近だ。「問題作」とは米国限定ではない。本作のすごみが、そこにある。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)