チャートの裏側

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2024.10.18

チャートの裏側:終わらせてなるものか

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

わかっていた。観客の年齢が高くなることだ。「踊る大捜査線」シリーズのスピンオフ2部作の前編「室井慎次 敗れざる者」である。「踊る」の最終作から12年。そのスピンオフ作「容疑者 室井慎次」からでも19年がたつ。この長い歳月は、前編の中身に反映されている。

警察キャリアだった室井は定年前に退職し、里親になった2人の子どもと秋田の田舎で暮らす。間近で事件が起こるが、映画は退職後の室井に、より焦点をあてる。警察改革に失敗した彼は「負け犬」と認識している。ただ、組織人から非組織人への「転換」もいばらの道だ。

定年を迎えたか、あるいは間近に迫った年代の人たちには身に染みるだろう。室井の渋面の顔つきは変わらないが、その意味はかつてとは違う。周囲との軋轢(あつれき)もある田舎暮らしは安穏ではない。一人黙々と古びた家に手を入れる。組織主体か個人主体か。どちらも生きづらい。

過去の「踊る」シリーズの場面が何度も挿入される。室井の現在と重ね合わさるのだ。ジーンとくる。ハンカチで涙をぬぐう女性客もいた。「踊る」を終わらせてなるものか。未練がましいとは言わない。作り手たちの心意気が勝った。スタート3日間の興行収入は3億6000万円。物足りないだろうが、映画には、このような「変化形」もある。後編は派手になるだろう。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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