毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.11.08
チャートの裏側:米ニューシネマの趣
今年、5本目のアメコミ映画だ。シリーズ3作目「ヴェノム:ザ・ラストダンス」である。ある男の肉体に、凶暴かつユーモラスな異生物が寄生する。「2人」の軽妙なやり取りが、ロードムービー的設定の中でさえわたる異色のバディー映画だ。ニンマリしてしまう場面も多い。
「2人」(ヴェノム)が目指す目的地の途中まで、車に乗せてくれる風変わりな4人家族が、また異彩を放つ。宇宙人の存在を確かめたくて、ある地に向かう最中だ。本筋からはかけ離れている家族だが、妙に心に残る。異生物は好印象を持ち、「食べなくてよかった」と言う。
家族に、1960年代から70年代に花開いたアメリカン・ニューシネマに登場する人物像のような趣があった。父親がヒッピーの生き残りにも見えた。未知な世界への憧れが、自由への強烈な渇きにつながる感じがあった。異生物は「自由の女神」に憧れを抱く。似ているのだ。
しだいに、4人家族の描写が作品の絶妙なスパイスになっていることがわかってくる。本筋からズレるとしても、スパイスの香りは本作に限らず、アメコミ映画の魅力の一端にも見えてきた。アメコミ映画の基本線を押さえつつ、「ヴェノム」には多様な楽しみ方が詰まっている。最終の興行収入で15億円超は大丈夫らしい。健闘の意味は、なかなか深いかもしれない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)