毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.11.01
チャートの裏側:「実」の中にも「虚と実」が
意外な作品がトップに立った。「八犬伝」だ。このタイトルだと、薬師丸ひろ子主演の角川映画「里見八犬伝」が懐かしい。「八犬伝」は、破天荒な異界の物語と、それを手がけた滝沢馬琴の執筆生活を交互に描く。「虚と実」が交差する構成だ。原作は山田風太郎。
執筆パートに見どころが多い。挿絵を依頼された葛飾北斎と馬琴の関係だ。仲のいい2人が、馬琴の自宅で「八犬伝」談議を繰り返す。馬琴の女房は「ジジイのよた話」と一笑に付すが、このよた話が何とも面白い。2人の創作から生き方までの違いが鮮明になるからである。
2人が歌舞伎の「東海道四谷怪談」を見る。この歌舞伎のシーンが素晴らしい。続いて登場した原作者の鶴屋南北と馬琴が、「虚と実」をめぐり火花を散らす。歌舞伎=虚、火花=実という形に見える。「虚と実」が、2人の「実」の中にも織り込まれる。重層的な構造が見事だ。
と言いつつ、ここで本作の立ち位置の難しさが感じられてくる。異界を描くスペクタクル=虚より、執筆生活=実のほうがやけに身に迫るからだ。両者の受け取り方は、人によって違うとは思う。ただ、両者の融合ということになると、どうだったか。最終の興行収入で、10億円突破は難しいかもしれない。このスケール、俳優陣の奮闘からすると物足りなく感じる。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)