毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.11.22
「チネチッタで会いましょう」 人生は多難でも、映画があるじゃないか
チネチッタ撮影所で、イタリア共産党を題材にした新作を撮り始めた映画監督のジョバンニ(ナンニ・モレッティ)。女優は政治的な映画を恋愛映画だと主張し、プロデューサーとして並走してきた妻(マルゲリータ・ブイ)には離婚を切り出され、フランス人プロデューサー(マチュー・アマルリック)は詐欺師だったことが判明。順調にキャリアを築いてきたジョバンニの人生の雲行きが、にわかにあやしくなってくる。
カンヌ国際映画祭にも出品された、イタリアの名匠、モレッティの最新作。世代間のギャップや自己認識と周囲の評価との差異を感じ始めたかたくなな映画監督を、自ら演じている。ローマの街で風を切る相棒は「親愛なる日記」のベスパから電動キックボードになり、動画配信サービスのネットフリックスや韓国資本の参入などのエピソードも登場。フェリーニ、スコセッシらの作品への目配せは映画愛を感じさせ、フィナーレのパレードは明るい未来を予感させるが、最後まで自嘲が笑いへと転がっていかないむずがゆさも残った。1時間36分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・テアトル梅田ほか。(細)
ここに注目
映画作りを取り巻く環境は多難で厳しいが、映画には無限の可能性がある。自由がある。何より魅力がある。人生はどうしようもないことばかりでも、映画があるじゃないか……。本作の登場人物、過去のモレッティ作品の俳優らによるラストのさわやかな笑顔がそう語っている。映画、最高と。(鈴)