毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.7.05
「フェラーリ」 スリルと興奮を体感させる映像の迫力
1957年、フェラーリの創業者エンツォ(アダム・ドライバー)は苦境に立たされている。妻ラウラ(ペネロペ・クルス)との仲は険悪、愛人リナ(シャイリーン・ウッドリー)からは12歳になる息子の認知を迫られている。一方会社は経営難で、人気を取り戻すにはイタリアを縦走する公道レース、ミッレミリアで絶対に負けられない。若手ドライバーを叱咤(しった)する中、レースは刻々と迫る。
マイケル・マン監督が30年越しの構想を映画化。製作総指揮に回った「フォードVSフェラーリ」にもチラリと登場したエンツォの肖像を、数カ月に絞って描き出す。私生活も会社も追い詰められて、なおスピード追求をやめぬ男の業に焦点を当てるのは、いかにもマン監督。当時の車を忠実に再現し、ドライバーの肩越しに据えたカメラでレースのスリルと興奮を観客に体感させる映像の迫力も十分だ。一方で、エンツォ自身に動きは乏しく、むしろ鬼妻のラウラと慈母のごときリナの、エンツォを挟んだドロドロが、メンタルアクションとしてすさまじい。2時間10分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)
ここに注目
マン監督のスタイリッシュな美学を具現化した撮影監督、エリク・メッサーシュミットの仕事が素晴らしい。フェラーリ社のシンボルカラーの〝赤〟が映えるレースシーンの鮮烈さ。一方、エンツォの公私にわたる問題を詰め込んだドラマ部分は混乱気味で、クルスの鬼気迫る演技ばかりが印象に残った。(諭)