「幻滅」 ©2021 CURIOSA FILMS-GAUMONT-FRANCE 3 CINÉMA-GABRIEL INC.–UMEDIA.

「幻滅」 ©2021 CURIOSA FILMS-GAUMONT-FRANCE 3 CINÉMA-GABRIEL INC.–UMEDIA.

2023.4.14

「幻滅」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

19世紀前半。田舎の青年リュシアン(バンジャマン・ボワザン)が詩人を志し、愛する貴族の人妻ルイーズ(セシル・ド・フランス)と駆け落ちする形でパリに行く。社交界の人々に冷笑され、生活苦にあえぐリュシアンは、新聞社で働き始めるが……。

フランスの文豪バルザックの「人間喜劇」の一編に基づく正統派の文芸映画だが、娯楽性もたっぷり。夢を追い求める純朴な若者が、虚飾に満ちた都会生活にむしばまれて身を滅ぼしていく様を、起伏の激しいストーリー展開で描出。さらに当時の混沌(こんとん)とした政治状況を背景に、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する文壇や大衆演劇の猥雑(わいざつ)さを表現した映像のバイタリティーがすごい。カネにまみれたジャーナリズムの腐敗ぶりを風刺した描写も痛烈。バンサン・ラコスト、グザビエ・ドラン、ジェラール・ドパルデュー、ジャンヌ・バリバールらの豪華なスターが共演し、セザール賞では作品賞など7部門を受賞した。グザビエ・ジャノリ監督。2時間29分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)

ここに注目

ジャーナリズムの堕落は、あながち現代とかけ離れているとも言い切れず、「誰に向けた」「何のため」の一線を越えた記事がもたらす恐怖が伝わる。享楽や退廃が損得勘定と相まって、フェイクが日常茶飯になるいびつさも明快に映し出す。喧騒(けんそう)と狂乱の中で駆け引きに奔走する人間模様は、見応え十分。(鈴)

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