「インスペクション ここで生きる」 ©2022 Oorah Productions LLC.All Rights Reserved.

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2023.8.04

特選掘り出し!:「インスペクション ここで生きる」 行く先にある悲劇と皮肉

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

LGBTQなど性的少数者を題材とした映画が目立ち、疎外された人たちの苦悩と苦闘はさまざまに描かれている。エレガンス・ブラットン監督が自身の体験を映画化したという本作も、ゲイの青年が居場所を求める物語。だが、彼が行き着くのは軍隊である。

2005年、フレンチ(ジェレミー・ポープ)は米海兵隊に志願する。ゲイの息子を受け入れない母親とは絶縁状態で、16歳から路上生活を送っていた。どん底から抜け出す唯一の道なのだ。訓練キャンプではゲイであることを隠していたものの、やがて露見。手ひどいいじめに遭う。

スタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」のごとき新兵への理不尽なしごきやいじめが描かれるものの、軍隊の非人間性や腐敗を告発しようという映画ではない。海兵隊員として一人前になろうとするフレンチの葛藤と奮闘に焦点を当てる。母親を慕いながら拒絶される悲しみや、同情的な上官との交情。自分を貫くフレンチの懸命さにやがて周囲も見る目を変え、ついに彼も居場所を見つける。しかし「モンスター」となるべく鍛えられた彼の行く先は非人間的な戦場だ。〝ここでしか生きられない〟フレンチの姿に、感動より悲劇と皮肉を見取ってしまった。1時間35分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

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