「アイアンクロー」 © 2023 House Claw Rights LLC; Claw Film LLC; British Broadcasting Corporation. All Rights Reserved.

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2024.4.12

この1本:「アイアンクロー」 求めた夢の呪縛と末路

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

思い返すと昭和の時代、プロレスはいかにも米国的なショーだった。強い個性を持ったマッチョな男たちが、力と技を競う。反則技を繰り広げる悪役はヒーローが成敗する。強い者が勝つ。正義は負けない。この映画の主人公は、1960年代から90年代に知られたプロレス一家、フォン・エリック家の男たち。闘う男たちの栄光と挫折の軌跡に、アメリカンドリームの呪縛と末路が浮かび上がる。

父親フリッツは「鉄の爪(アイアンクロー)」を必殺技に活躍。引退後は自分でプロレス団体を作り、息子たちをレスラーにして〝世界制覇〟を目指している。期待の星は次男のケビン(ザック・エフロン)、続いて三男デビッド(ハリス・ディキンソン)が人気を博し、米国のボイコットで五輪出場を逃した四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)も加わって、3兄弟として売り出した。

一家はアメリカの理想を体現する。父親を中心に固く結束、息子たちは指示通りに体を鍛え、レスラーとなりチャンピオンを目指す。良妻賢母の母親、あつい信仰心。成功をつかむために努力と献身を惜しまない。

ところがデビッドはこれからという時に日本で客死、ケリーは念願のチャンピオンになった直後に事故で片足を失う。代わりに音楽家を目指していた五男マイク(スタンリー・シモンズ)がリングに上がるものの、試合中のけがに苦しみ、非業な最期を遂げる。後に「フォン・エリックの呪い」と言われた不幸のつるべ打ち。

物語はケビンの目から描かれる。長男を早くに亡くし、兄弟の最年長として率先して父親の期待に応えようとするのに、弟たちに後れをとってしまう。不満をのみ込み黙々と努力しても、次々と悲劇が訪れる。米国が求める美徳を満たし、栄光を夢見た一家がなぜ不幸になるのか。父権の幻想にすがりアメリカンドリームを追う一家は痛々しく、もの悲しさすら漂う。そこから解放された終幕に、ようやく肩の力が抜けた。ショーン・ダーキン監督。2時間12分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

ここに注目

昭和のプロレスファンなら誰もがやんちゃな少年時代にまねしたアイアンクロー。本作を見ると、そんな懐かしの必殺技が若き兄弟たちの心をむしばむ〝呪縛〟の象徴に思えてくる。心理スリラー「マーサ、あるいはマーシー・メイ」で知られるダーキン監督も子供の頃はプロレス狂だったそうで、ハーリー・レイスやリック・フレアーらが登場する1980年代プロレスの再現度の高さがすごい。35㍉フィルムの陰影豊かな映像、家父長制の問題などを現代的視点で捉えたドラマも含め、まさにヘビー級の見応え。(諭)

ここに注目

プロレス好きの父とよくテレビの中継を見た。スタン・ハンセン、ドリー・ファンク・ジュニアとテリー・ファンクの兄弟、ディック・マードック。そして、この映画のエリック一家。テキサス州出身で、日本でも活躍した。テキサスといえば腕っぷしの強い荒くれ者、男らしさの象徴だった。フロンティアスピリットとも少し重なった。力を誇示するアメリカのイメージそのもの。神経質な小心者がしゃべりまくるウディ・アレンが印象的なニューヨークと対局だ。テキサスの広大な土地の香りと懐かしさも漂う。(鈴)

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