「かくしごと」©2024「かくしごと」製作委員会

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2024.6.14

「かくしごと」 女優・杏の記念碑的秀作

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

絵本作家の千紗子(杏)は絶縁状態だった父孝蔵(奥田瑛二)が認知症になったため、郷里に戻る。ある日、久しぶりに再会した旧友の久江(佐津川愛美)と帰宅途中、久江が少年(中須翔真)を車ではねてしまう。少年は大きなけがはなかったが、記憶を失い、体に虐待の痕が無数にあった。千紗子は少年を守るため自分の子として育てることを決意する。

スマートでそつのないクールなイメージが強かった杏が、女優として大きな一歩を踏み出した記念碑的秀作である。計算された演技というより、内から自然と湧き上がってきたものを体全体にしみこませ、気持ちの赴くままに動き、言葉を発しているように感じた。千紗子のとった行動を理解するとか、信じられないとかを通り越して、生々しい感情の発露が胸を打つ。奥田や佐津川ら俳優陣が全員いい顔をしているのは、底力に加え緑豊かな山あいの自然や川のせせらぎの音が生みだす空気感によるところもあるだろう。認知症と児童虐待という困難な現実を見据え、物語の背景としたのも奏功した。関根光才監督。2時間8分。東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)

異論あり

飲酒運転事故の隠蔽(いんぺい)から切実な感情に駆られたウソまで、いくつもの〝かくしごと〟がちりばめられた物語は面白い。脇役も含めて人間をリアルに描こうという作り手の意図もよく伝わってくるが、そのぶん映画の焦点があちこちに振れ間延びしてしまった印象を受ける。ラストの〝意外な真実〟には驚いた。(諭)

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